瓦版ACLOGOS(4)
令和6年4月19日に最高裁判所において、株券発行会社の株主が株券の発行のないまま株式を譲渡した場合の効力に関し、これを無効とした原審を破棄し、差し戻した判決がありました。
最高裁判所の裁判情報によれば、次のような事案です。
【事案の概要】
株券発行会社の株式を譲り受けたX(上告人、原審参加人)が、当初の株主であるY(被上告人、1審被告、原審被控訴人)らに対し、Xが上記株式を有する株主であることの確認等を求める事案であり、Yらは、株券の発行前に上記株式を他に譲渡し、Xは1審原告Zからこれを譲り受けたところ、株券の発行前にした株式の譲渡が譲渡当事者間で効力を生ずるかどうか等が問題となっている。
【原審東京高裁判決】
株券の発行前にした株式の譲渡は、会社法128条1項により、譲渡当事者間においてもその効力を生じず、株主でないZが債権者代位権を行使して株券発行会社から株券として文書の交付を受けても、同文書は株券としての効力を有しないから、Xは無権利者から株式を譲り受けたにすぎず、善意取得の余地もないと判断し、Xの請求を棄却した。
【本件最高裁判決の要旨】
株式は意思表示のみによって譲渡することができることを原則とする。
会社法128条は、株券発行会社の株式の譲渡について特則を設け、同条2項は、株券の発行前にした譲渡につき、株券発行会社に対する関係に限ってその効力を否定している。そして、同条1項は、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じないと規定している。
株券の発行前にした譲渡について、仮に同項が適用され、株券の交付がないことをもって、株券発行会社に対する関係のみならず、譲渡当事者間でもその効力を生じないと解すると、同項とは別に株券発行会社に対する関係に限って同条2項の規定を設けた意味が失われることとなる。また、株券の発行前にした譲渡につき、上記原則を修正して譲渡当事者間での効力まで否定すべき合理的必要性があるということもできない。
以上によれば、同条1項は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であると解するのが相当であるというべきである。
株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができるというべきであり、株券発行会社が、これに応じて会社法216条所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになる。
したがって、上記文書につき、株券発行会社に対する関係で株主である者に交付されていないことを理由に、株券としての効力を有しないと解することはできない。
【コメント】
株券発行前の株式譲渡の当事者間における効力については、次のような学説、裁判例があります。
1 学説
(A)当事者間に債権的な効力は発生させるが、会社との関係では(当事者間でも)譲渡の効力を生じさせないとの説。
(B)上記(A)説は、128条1項に加えて、会社に対する効力のみを定める同条2項をあえて設ける趣旨が説明しがたいとし、同条2項は同条1項の特則であって、株券発行前は同条1項の適用が排除され、民法の一般原則により、当事者間では意思表示(契約)のみによって有効に株式を譲渡できるが、当該譲渡は会社との関係では効力を生じないとする説。
本件判決は、(B)説を採用したものと思われます。
2 裁判例
最判昭和47.11.8
商法204条2項(「株券ノ発行前ニ為シタル株式ノ譲渡ハ会社ニ対シ其ノ効力ヲ生セス」)法意を考えてみると、それは、株式会社が株券を遅滞なく発行することを前提とし、その発行が円滑かつ正確に行なわれるようにするために、会社に対する関係において株券発行前における株式譲渡の効力を否定する趣旨と解すべきであって、右の前提を欠く場合についてまで、一律に株券発行前の株式譲渡の効力を否定することは、かえって、右立法の趣旨にもとるものといわなければならない。もっとも、安易に右規定の適用を否定することは、株主の地位に関する法律関係を不明確かつ不安定ならしめるおそれがあるから、これを慎しむべきであるが、少なくとも、会社が右規定の趣旨に反して株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らしても株式譲渡の効力を否定するを相当としない状況に立ちいたった場合においては、株主は、意思表示のみによって有効に株式を譲渡でき、会社は、もはや、株券発行前であることを理由としてその効力を否定することができず、譲受人を株主として遇しなければならないものと解するのが相当である。
3 上記2の裁判例は会社が不当に株券の発行を遅延していたという特殊な場合の事案であり、株券発行会社が株券を不発行の場合に一般論として株主が当該株式を株券不発行のまま譲渡した場合の効力について論じたものとして、本件判決は重要な判例だと思われます。
以 上