【遺産分割】戸籍訂正審判・不在者財産管理人を利用した遺産分割

事案の概要

本件は、遺産分割にあたり以下の2点が問題となった事案です。

① 戸籍上「異母姉弟として同じ生年月日で同姓同名の姉弟が2組存在する」

② 1名の相続人が行方不明

②の遺産分割の当事者が行方不明という事案は比較的よくあります。

また、戸籍の記載が誤っているということも、意外とあるのですが、①のように同姓同名の姉弟が戸籍上2組記録されており、そのうち一方が全く実在しないというケースは非常に珍しいことです。

具体的には、以下のような状況でした。

  • 出生地:愛知県名古屋市 山田A男さんと甲山B子さん(先妻)の子供である「山田花子」さんと、「山田太郎」さんという姉弟
  • 出生地:岐阜県岐阜市 山田A男さんと山田C子さん(後妻)の子供である「山田花子」さんと、「山田太郎」さんという姉弟

※ 生年月日はいずれも同一。出生地・氏名は架空。

遺産分割に際しては、相続人を確定しなければなりませんので、①の問題を処理してから、②の対応を行うという流れになります。

戸籍の訂正許可審判

訂正の内容

同じ生年月日・同姓同名の異母姉弟が2組いるというのは、常識的にはおよそあり得ませんが、法律上あるいは論理的には、両立しないわけではありません。変な話ですが、母親が別であれば、父親の同じ子が同じ日に2人生まれることはあり得ます。

一般的な戸籍の訂正は、戸籍の「古い戸籍と新しい戸籍の間が抜けている」場合や戸籍の前後で「同一人物かどうかが」分からない、親子関係に誤りがあるなどというケースが多いのですが、本件は現実には存在しない姉弟が、形式上は不備なく存在していた点で特徴的です。

したがって、この戸籍を訂正する場合は、形式上は不備のない1組の姉弟を戸籍上抹消してしまうという内容になるのです。

訂正の手続き

戸籍の訂正をする場合には、関係者は家庭裁判所の許可審判又は判決を得たうえで申請しなければなりません。許可審判は訴訟手続よりは簡易な手続きで行われます。

戸籍法第113条 戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。

どの様な場合に許可審判を得て、どの様な場合に裁判になるのかは、必ずしも明確な決まりはありません(ただし,任意認知,養子縁組,協議離縁,婚姻,協議離婚等の各届出に係る行為は許可審判の対象から除外)。

本件は、形式上不備のない1組の姉弟を戸籍上抹消するという重大な内容でしたので、検察官を相手に裁判手続きを行う必要があるかとも思いましたが、結論としては審判手続きで行うことが出来ました。

いくら論理的には両立し得るとしても、やはり同じ日に同じ名前の子供が2組いるというのは、どちらかが事実ではないこと(錯誤)であることが明らかでしたし、また、戦後間もない時期のものであるために、基本的には関係者の陳述ベースでの疎明になり物証はほとんどなかったものの、関係者が非常に協力的であり、後妻の子供というのが真実であることが明らかであった(先妻は子供たちが生まれたときには沖縄にいた。)ことが裁判所の判断に影響したのだと考えられます。

どうしてこの様な戸籍が発生したのか

この様な戸籍が発生してしまった理由は明確ではありませんが、どうやら、戦中の混乱期に出生したため、記録が法務局間で十分に共有されていなかったことが影響しているようです。

戸籍を見ると、真実(後妻の子)の戸籍の届け出が戦争中にされていましたが、実際に戸籍に反映されたのは届け出から15年も経ってからのことであり、その間、子供たちは無戸籍状態になっていました。

また、このご家族は戦後まもなく沖縄に引き上げてきていますが、その時点では沖縄県は外国であり、無戸籍では出国の手続きが困難であったために、(先妻との離婚も戸籍上反映されていなかったこともあって)、やむなく先妻との子供として届け出をしたのだと推察されます。

情報共有技術が未発達であったこと、戦中の混乱期であったために発生した稀有な事例であったと思われます。もっとも、沖縄県は戦争により戸籍や登記簿が焼失してしまった影響が、未だに残っており、戸籍の記載が不自然であったり、登記簿上の氏名が不正確であるといったケースよくあります。

戦後75年を経過してもなお、こうした問題が残っていることに、沖縄戦の苛烈さが見てとれます。

不在者財産管理人

失踪宣告と不在者財産管理人の違い

さて、戸籍訂正許可審判により戸籍が訂正されると、公的資料で相続人が確定します。もっとも、そのうち1名が長年行方不明の状態にありました。

この様な場合には、「失踪宣告」か「不在者財産管理人」を選任することになります。

失踪宣告は、失踪者を法律的には死亡と同様に取り扱う制度です。これに対して、不在者財産管理人は裁判所から選任された弁護士や司法書士が不在者に代わって諸手続きを行う制度です。

失踪宣告は、相続の局面ではすっきりはしますが、死亡と同様の扱いにするというのは憚られるという心情面や、(失踪者に相続人がいなければ)失踪者に対する相続財産の分与が行われないため、裁判所も手続きに慎重であり、手間がかかってしまいます。

対して、不在者財産管理人の場合は、あくまで「不在者が戻るまで一時的に管理する」という建前ですので、不在者に対しても法定相続分での分与が行われることになります。時間的にも、一般的には失踪宣告よりは若干早いと言えます。

遺産分割協議:帰来時払い

本件では、依頼者が耕作をしている畑があったことから、依頼者がこれを単独で相続する代わりに、畑と預貯金について不在者の法定相続分に相当する金額を、不在者のために取っておくという遺産分割を行いました。

なお、不在者財産管理人といっても、その後ずっと管理を継続するケースは稀です。管理を継続するとその分報酬を支払わないといけませんが、管理人の報酬を支払い続けるとそもそも財産自体がなくなってしまいます。

したがって、全く所在が分からない場合や財産の金額がそれほど大きくない場合には、帰来時払いといって、相続人の一部の人が代表として不在者の財産を預かり、もしも不在者が返ってきた場合には、遺産分割協議書に記載された財産を支払うという約束をするという方法が利用されます。

本件でも、帰来時払いを活用した遺産分割協議書を、不在者財産管理人である司法書士との間で作成し、無事、遺産分割を完了することが出来ました。

相続人が行方不明・戸籍の記載に誤りがある場合はご相談ください。

遺産分割の前提として、「相続人の確定」の問題が生じるケースはよくあります。こうした手続きは非常に煩雑なものです。

戸籍の記載、登記簿の記載に間違いがあったり、相続人が行方不明、そもそも相続人がいるのかどうかが分からない。こうしたお悩みをお抱えの方は、ぜひ一度、弁護士法人ACLOGOSまでご相談ください。

ご相談無料(初回) 098-996-4183