事案の概要
本件は、元請業者と下請業者のトラブルで、下請け業者が資金ショートしてしまい、受注している複数の工事を投げ出してしまったため、元請業者がほかの業者を使って建物の建築を完成させました。
これに対して、下請業者が、工事を止めた時点までの出来高報酬を支払う様に元請け業者に対して訴訟を提起してきたというものです。
建築紛争の進行
工事中の建物に関する紛争は、非常に煩雑です。
本件の様な建築紛争の場合、以下の項目すべて問題になるケースがほとんどです。
建築紛争の基本的な争点
① そもそもの当初の契約内容は何だったのか
② 工事の途中で追加・変更された箇所はどこか
③ 追加・変更時に代金の合意があったのか
④ 工期の変更について合意があったのか
⑤ 建物に瑕疵(契約不適合)はないか
⑥ 建物の瑕疵(契約不適合)の責任は誰にあるのか
実際に工事をしている方にはよくわかると思いますが、現場は常に動いており、施主からの注文や、技術的な問題での追加・変更は日常茶飯事です。
トラブルになる事例では、契約時点における図面が契約書と合綴されておらず、そもそも当初の契約内容が何だったのかというレベルからスタートします。そこから、どの部分が変更され、変更部分に対する金額の合意があったのかどうか、そして、施工ミスがあったかどうか、その損害額はいくらかが問題になります。
更に、今回は工事途中でのトラブルであったため、以下の争点も加わりました。
工事途中で中断した場合の争点
⑦ 工事を中断した時点で、どこまでの工事が進んでいたのか
⑧ 工事を中断した時点の出来高の評価をどの様に行うか
⑨ 工事を中断した後引き継いだ業者の工事価格は適正か
事案の進捗
この事案は、問題となっている工事現場が5か所程度と多数あり、それぞれについて、①~⑨が問題となりましたので、事件記録も膨大でした。
ただ、こうした記録が膨大な事案こそ最初が肝心であり、比較的記憶が残っているうちにしっかり整理を済ませてしまわないと、時間の経過とともにどんどん細かい部分が曖昧になっていってしまい、結果として、泥仕合になってしまいます。
したがって、この事案では、まずもって受任当初の段階で、中心的な争点に関する主張と証拠、すなわち、
・契約時点における図面/合意内容の特定
・工事がストップした時点までの工事費用
・工事がストップした後の工事費用
これらについて、複数の工事に関する、数十枚の図面と下請け業者が提出した見積書との関係性に説明を加え、数百枚に及ぶ請求書を整理して証拠として提出するとともに、その費用の一覧表を作成して裁判所に提出しました。
事案の結末
本件は、多数の請負工事に関するものであり、もともと非常に複雑な内容であったものの、早期に証拠関係を整理したことが功を奏し、終始有利に裁判を進めることが出来ました。
もっとも、本件では、工事を引き継いだ後に、本来の予算を超える増加費用が発生しておりましたので、0円どころか、本来は相手方から損害賠償してもらわないといけない部分もあったのですが、この点については、相手方に資力が乏しく、仮に、判決で多少の金額が認められても、結局は回収可能性が乏しいこと等を踏まえて、依頼者様と相談のうえで、最終的には「0円」での和解(ゼロ和解)となりました。
証拠の多い事件では、それを逆手にとられて泥仕合になってしまうと、本来認められるべき主張が見えにくくなってしまったり、裁判所の判断を惑わせることになりかねません。法的整理に基づく重みづけ(優先順位の決定)と主張・証拠の整理が非常に重要です。