【行政】令和2年ふるさと納税訴訟最高裁判決:泉佐野市は「節度を欠いていた」がなぜ勝訴?

泉佐野市ふるさと納税訴訟(最高裁令和2年(行ヒ)第68号不指定取消請求事件・同令和2年6月30日第三小法廷判決)

泉佐野市への「ふるさと納税指定制度」における「不指定処分」に対する訴訟提起

この事例は、泉佐野市が高額の返礼品を提供し続けたことを理由として、国が泉佐野市をふるさと納税指定制度について「不指定」としたことに対し不服があった泉佐野市が、国地方係争処理委員会への不服申立及び裁判所に不指定の取消等を求める訴えを提起し、勝訴したものです。

最高裁が「社会的節度を欠く」、「居心地が悪い」と表現

本件については、最高裁判決自体が、泉佐野市の過去の返礼品について「社会的節度を欠く」と表現し、また、林景一裁判官は結論について「居心地が悪い」とまで述べているのに、どうして泉佐野市の勝訴となったのか、その理由を説明いたします。

制度の解説

ふるさと納税による特例控除

ふるさと納税は2008年から開始された制度であり、地方自治体に対する寄付を行った場合に、2000円(時期にによっては5000円)を超える部分に対して、通常認められる個人住民税及び個人所得税の寄付金控除に、上乗せして特例控除が認められるものです。

高額返礼品の問題点

この制度について、寄付を募ることを主な目的として、寄付を受けた地方公共団体が返礼品を送付するという取り扱いが行われるようになり、中には高額の返礼品を用意する自治体が現れました。

しかしながら、返礼品が高額になると、行政サービスの「受益者負担」の原則が崩れること、地方公共団体の財源の不均衡が生じること、高所得者が得をする「逆進性」があること等の問題点があるとの指摘がありました。

国による「技術的助言」

そのため、国からは「技術的助言」として平成27年から平成30年にかけて、高額の返礼品をしないように求めたり、返礼品を地場産品に限定するように求めており、平成30年4月の通知では「返戻割合を3割以下」とし、返礼品を「地場産品」とするよう求めました。

ふるさと納税指定制度

その後、平成31年の地方税法改正により「ふるさと納税指定制度」が導入され、同制度の施行日は令和元年6月1日からとされ、地方税法の委任を受けた告示により、地方自治体がふるさと納税指定制度に応募するための基準(募集適正実施基準)として、応募する地方公共団体に平成30年11月1日以降について以下の要件を満たすことを要求しました。

募集適正実施基準

  • 寄付として地方公共団体が受ける金額の100分の50(50%)以内であること
  • 返礼品等を強調した宣伝広告などを用いていないこと
  • ふるさと納税の趣旨に反して、他の地方団体に比して著しく多額の寄附金を受領していないこと

また、同様に、新制度における返礼品について、以下の要件を満たすことを求めました(法定返礼品基準)

法定返礼品基準

  • 寄付として地方公共団体が受ける金額の100分の30(30%)以内であること
  • 返礼品の内容を地場産品等に限定すること

泉佐野市に対する「不指定処分」

泉佐野市については、以下の理由から、ふるさと納税指定制度について「不指定」とされました。

①平成30年11月1日以降も高額の返礼品を提供し続けたことが「募集適正実施基準」に反する。

②現に泉佐野市が高額の返礼品を行っていることからすれば、「法定返礼品基準」に適合する返礼品が提供されるものと見込まれない。

問題点は何?

泉佐野市が提出した不服申立てにおいては、複数の理由が掲げられていますが、重要なのは以下の3点です。

ふるさと納税訴訟の論点

  • ①募集適正実施基準が「国の地方公共団体に対する関与」の原則及び「技術的助言に対する不利益取り扱い禁止(地方自治法247条第3項)に反しないか
  • ②募集適正実施基準が「告示」によって、不指定の理由となる様な重要な要件を定めているのは「法律の委任」に反しないか
  • ③今後、泉佐野市において、法定返礼品基準に適合しない返礼品が提供されることが見込まれると言えるのか

なお、①に反するような行為であれば、②法律の委任を判断する際にはより慎重な判断が必要という点で、①と②は関連しております。

①地方公共団体への国の「関与」

国と地方の「対等・協力」関係

地方公共団体と国とは、いずれも日本国憲法に根拠を有する団体です。そして、これらの両団体は、何となく「国が上位」で「地方公共団体(都道府県・市町村)は下位」という印象を持っているのではないでしょうか。

かつては、機関委任事務に象徴されるように国と地方とは主従関係とされていましたが、2000年の「地方分権一括化法」施行以降は、国と地方公共団体(都道府県・市町村)とは、基本的に広域的な政策を取り扱うのか、地域的な政策を取り扱うのかという違いであり、少なくとも、法形式上は、「対等・協力」関係を原則としています。

そのため、地方の行う事務に対して国は出来る限り干渉をしてはいけませんし、干渉する場合も「必要最小限」なものでなければなりません。ただし、実際上、国は地方よりも広域的な政策を取り扱う関係から、地方の諸施策との関係で、干渉せざるを得ない場合はあり、この様な干渉行為を「関与」と言います。

地方自治法245条の3(関与の基本原則)
1 国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。
2 国は、できる限り、普通地方公共団体が、自治事務の処理に関しては普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち第二百四十五条第一号ト及び第三号に規定する行為を、法定受託事務の処理に関しては普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち同号に規定する行為を受け、又は要することとすることのないようにしなければならない。
※なお、「対等・協力」といっても、相互に完全な拒否権をもってしまうと、行政運営が出来なくなってしまうので、様々なルールがありますが、ここでは説明を省きます。

関与の一形態である「技術的助言」と不利益取り扱いの禁止

ふるさと納税訴訟では、この裁判に先立って、国は平成27年から毎年「技術的助言」として、高額の返礼品を提供しないように要請を続けていました。
この点、「国のいうことを聞かない泉佐野市はけしからん」という評価はあり得ても、法律上はあくまで「助言」に過ぎず、泉佐野市はこれに従う法的な義務はありません。それどころか、地方自治法は「助言」が事実上強制になってはいけないということで、「技術的助言」に従わないことを理由として「不利益取扱」をしてはならないと定めています。
地方自治法247条(技術的な助言及び勧告並びに資料の提出の要求)

3 国又は都道府県の職員は、普通地方公共団体が国の行政機関又は都道府県の機関が行つた助言等に従わなかつたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない

※詳しい説明は省略しますが、今回の問題は「地方税の賦課徴収」に関わる「自治事務」であるため、国としても技術的助言という法的拘束力のない手段しか取れません。他方、辺野古新基地建設の様な「法定受託事務」の場合には、最終的には国が都道府県に代わって、事務を行うという手段(代執行)も存在します。

最高裁の判断

地方自治法247条3項との関係

①募集適正実施基準が「国の地方公共団体に対する関与」の原則及び「技術的助言に対する不利益取り扱い禁止(地方自治法247条第3項)に反しないか

この問題に関して、最高裁は、法律の施行前の事情を理由にして不指定とすることは、実質的には、「技術的助言に従わなかった」ことを理由として不利益を与えた側面が否定できないとしました。

本件告示2条3号は,上記のとおり地方団体が本件改正規定の施行前における返礼品の提供の態様を理由に指定の対象外とされる場合があることを定めるものであるから,実質的には,同大臣による技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があることは否定し難い。

泉佐野市ふるさと納税最高裁判決から抜粋

法律の委任との関係

ただし、最高裁は「地方自治法の趣旨に反する側面がある」とは述べつつも、その場合でも、②地方税法という「法律」によって、「改正規定の施行前における募集実績自体を理由に(中略)指定を受けられないこととする」ということが、明確に委任されていれば、違法とまでは言えないとも述べています。

以下、「法律の委任」との関係を説明していきます。

②「法律の委任」の範囲内と言えるか

「法律の委任」とは?

法律の委任とは、本来的には国会によって可決された「法律」という形式をもって定めるべき事項のうち、一部を、「法律」ではない形式で定めることを言います。「法律で定めるべき事項」(法律事項)には、「国民に義務を課し、又は国民の権利や自由を制限する規定」や、「行政機関の組織や権能を定める規定」などがあります。

要は、国会議員が全て定めるというのは現実的ではないので、「この部分は施行令や施行規則で定める」と法律に書いておくことで、「法律によって委任された省庁」などが「規則」等の形で定めることが出来るのです。今回問題となった「告示」もその一形態です。

委任は個別具体的であることが必要

この様に、立法技術として「法律の委任」という方法がありますが、どんな内容でも委任できるとすれば、そもそも「法律で定めなければいけない」とした意味がなくなってしまいます。また、規則などは各省庁などが作成するので、三権分立の観点にも反します。

そのため、法律によって規則等に委任を行う場合には、白紙委任・包括委任は禁止され、また、罰則など国民の権利義務に多大な影響を与える内容を規則に委任することは原則として許されません。

また、「法律の委任」を行う場合の委任内容は、「個別具体的」なものでなければいけません。また、その具体性の程度については、技術的助言に対する不利益取り扱いが禁止されているという趣旨を踏まえて、より具体的・明確に、「実績自体を理由に,指定対象期間において寄附金の募集を適正に行う見込みがあるか否かにかかわらず,指定を受けられない」ということが定められていなければならないとしました。

「地方自治法247条3項」の趣旨も考慮すると,本件告示2条3号が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには,「実績自体を理由に,指定対象期間において寄附金の募集を適正に行う見込みがあるか否かにかかわらず,指定を受けられないという」趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が,同法の規定等から明確に読み取れることを要するものというべきである。

泉佐野市ふるさと納税最高裁判決から抜粋(ただし、「」内は編集をしています)。

最高裁の判断

最高裁の判断は大きく分けて2点あります。

条文の文理解釈

今回問題となったのは、地方税法37条の2による「法律の委任」ですが、同条文によれば、告示に委任される事項は「募集の適正な実施に係る基準」とされています。

この条文の文言からすれば、実際に今後、寄付金の募集を適正に行うことが出来るかどうかを判断するべきですが、「過去の実績によって指定を受ける適格性がない」ということまで、委任されているとは読み取れないと指摘しています。

地方税法37条の2第2項柱書きの募集適正基準について,同項の文理上、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から,本件改正規定の施行前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとすることを予定していると解するのは困難であり,同法の他の規定中にも,そのように解する根拠となるべきものは存在しない。

泉佐野市ふるさと納税最高裁判決から抜粋

委任の趣旨の解釈

また、最高裁は、地方税法が告示に委任をしている趣旨は、返戻品の具体的な内容は、専門的・技術的な問題であるため、法律ですべてを事細かに定めることは適当ではないという趣旨だとしています。

つまり、そもそも適格性を欠くとか、そういった「大きな話」「重要な話」は告示で決めることは想定されないということです。

地方税法37条の2第2項が総務大臣に対して指定の基準のうち募集適正基準等の内容を定めることを委ねたのは,寄附金の募集の態様や提供される返礼品等の内容を規律する具体的な基準の策定については,地方行政・地方財政・地方税制や地方団体の実情等に通じた同大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当であることに加え,そのような具体的な基準は状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要があり,法律で全て詳細に定めるのは適当ではないことによるものと解される

泉佐野市ふるさと納税最高裁判決から抜粋

したがって、過去の行為によって、直ちにふるさと納税指定制度から除外するかどうかは、それ自体を国会でしっかり審議すべき「政治的、政策的観点から判断すべき性質」のものだとしています。

本件指定制度の導入に当たり,その導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について,他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から,特例控除の対象としないものとする基準を設けるか否かは,立法者において主として政治的,政策的観点から判断すべき性質の事柄である。

また,そのような基準は,上記地方団体について,本件指定制度の下では,新たに定められた基準に従って寄附金の募集を行うか否かにかかわらず,一律に指定を受けられないこととするものであって,指定を受けようとする地方団体の地位に継続的に重大な不利益を生じさせるものである。そのような基準は,総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄とはいい難いし,状況の変化に対応した柔軟性の確保が問題となる事柄でもない。

泉佐野市ふるさと納税最高裁判決から抜粋

このほか、最高裁は、地方税法37条の2の立法当時における国会審議からも、告示に「過去の行為をもって指定対象から除外する」ということを委任をしたとは考えられないとしています。

小まとめ

募集適正基準については、以上のとおり、「技術的助言」に対する不利益取り扱いを禁止する地方自治法の趣旨に鑑みれば、「法律の委任」は個別具体的かつ明確な委任が必要だとしたうえで、地方税法の文理解釈や告示に委任した趣旨からは、「過去の実績をもって排除する」という重要な政策的判断の委任をしたとは認められないとしました。

③法定返礼品基準に反しないか

更に、最高裁は国地方係争委員会が判断を回避した、「法定返礼品基準」に反しないかも判断を行いました。

泉佐野市は「社会的節度を欠く」?

まず、泉佐野市がこれまで行ってきた返礼品の内容それ自体の評価としては「社会通念上節度を欠く」となかなか手厳しい指摘をしています。

泉佐野市は,多くの地方団体が自律的に返礼品の見直しを進める中で,返礼割合が高くかつ地場産品以外のものを含む返礼品の提供を続けた上,本件改正法が成立した後も,本件改正規定の施行直前までの予定で,キャンペーンと称し,従来の返礼品に加えてアマゾンギフト券を交付するとして,返礼品を強調した寄附金の募集をエスカレートさせたものであり,このような本件不指定に至るまでの同市の返礼品の提供の態様は,社会通念上節度を欠いていたと評価されてもやむを得ない

泉佐野市ふるさと納税最高裁判決から抜粋

さらに、補足意見でも「眉をひそめざるを得ない」とも言われています。

居心地の悪さの原因は,泉佐野市が,殊更に返礼品を強調する態様の寄附金の募集を,総務大臣からの再三の技術的な助言に他の地方団体がおおむね従っている中で推し進めた結果,集中的に多額の寄附金を受領していたことにある。特に,同市が本件改正法の成立後にも返礼割合を高めて募集を加速したことには,眉をひそめざるを得ない

泉佐野市ふるさと納税最高裁判決:林景一裁判官補足意見から抜粋

冒頭に述べたように、多額のふるさと納税が行われると、地方税の徴収に不均衡が生じることになり行政運営の公平性が保たれなくなる可能性があるという重大な問題があります。にもかかわらず、高額の返礼品をエサにふるさと納税を大々的にやってきたことについて、最高裁がこれを「節度を欠いていた」と評価したことは理解できるところです(もちろん、その様な穴のある制度を作った方も問題ですが)。

とはいえ、泉佐野市の行為は「改正法施行前」の行為

しかしながら、泉佐野市の行為はあくまで改正法の施行前の行為であり、改正法施行後は「法定返礼品基準に違反すれば指定の取消しの対象となり,その後2年間は指定を受けられなくなる」という制限が付きます。

「指定取消」という重大な制裁があるのかないのかは、応募する地方公共団体の行動に大きな影響を与えることは容易に想定でき、泉佐野市が高額の返礼品を提供していたのも「指定取り消し」という制裁がない状況下でのことに過ぎません

だとすれば、「指定取り消し」という制裁があるにもかかわらず。施行後も泉佐野市がこれまで同様、高額の返礼品を提供しつづける恐れがあるとまでは言えない、ということで最高裁は、この不指定理由も不適切であるとして、泉佐野市の勝訴としました。

今後の展開は?国は地方税法を改正するのか。

今回の判決理由からすれば、今からでも改めて地方税法を改正して、法律または法律による明確な委任があれば不指定とすることも適法となる様に思います。

林裁判官は捕捉意見で、「ふるさと納税」はゼロサムゲームと述べるとおり、この制度はある地方公共団体が富めば、他の地方公共団体の税収は減少するという関係性にあり、その様な関係性において高額の返礼品をもって多額の税収を得た泉佐野市には、新制度のスタートを遅らせるというのは理解できないことではありません。

ふるさと納税制度自体が,国家全体の税収の総額を増加させるものではなく,端的にいってゼロサムゲームであって,その中で,国と一部の地方団体の負担において他の地方団体への税収移転を図るものであるという,制度に内在する問題が,割り切れなさを増幅させている面もある。そして,その結果として,同市は,もはやふるさと納税制度から得られることが通常期待される水準を大きく上回る収入を得てしまっており,ある意味で制度の目的を過剰に達成してしまっているのだから,新たな制度の下で,他の地方団体と同じスタートラインに立って更なる税収移転を追求することを許されるべきではないのではないか,あるいは,少なくとも,追求することを許される必要はないのではないかという感覚を抱くことは,それほど不当なものだとは思われない。

泉佐野市ふるさと納税最高裁判決:林景一裁判官補足意見から抜粋

ただし、この問題はこれまで国会で審議する機会はいくらでもあったはずであり、国地方係争処理委員会でも「法律の委任」の範囲を超えていると言われても地方税法の改正はしてこなかったので、今からバタバタと法改正をするということは考えにくいのではないかと思います(スケジュール的にも難しいのではないかと思います。)。

そうすると、結局のところ、国は泉佐野市も含めて新制度の対象として指定することになるものと考えられます。