【連載コラム】同一労働同一賃金⑧賞与

同一労働同一賃金(賞与)

 

    弁護士法人ACLOGOS

           弁護士 竹 下 勇 夫

 

 大阪高裁平成31124日(日本郵便⦅大阪⦆事件控訴審)判決(原審判断を引用)

 ①賞与は、一般的に、対象期間の企業の業績等も考慮した上で、月額で支給される基本給を補完するものとして支給されるものであり、支給対象期間の賃金の一部を構成するものとして基本給と密接に関連するものであると認められる。そして、これら賞与の性格等に照らせば、賞与支給の有無及び支給額の決定については、基本給の設定と同様に、労使間の交渉結果等を尊重すべきであるとともに、功労報償的な性質及び将来の労働への意欲向上へ向けたインセンティブとしての意味合いをも有するものであることも否定できないことも併せ考慮すると、使用者の人事政策上の裁量の及ぶ事項であることから、使用者において,広い裁量があると認められる。

②(イ)正社員と本件契約社員との職務の内容等には相違があり、同相違に伴って、功績の程度や内容、貢献度等にも自ずから違いが存在することは否定できないこと、(ロ)長期雇用を前提として、将来的に枢要な職務及び責任を担うことが期待される正社員に対する夏期年末手当の支給を手厚くすることにより、優秀な人材の獲得やその定着を図ることは人事上の施策として一定の合理性があること、(ハ)正社員の夏期年末手当は、年ごとの財政状況や会社の業績等を踏まえて行われる労使交渉の結果によって、その金額の相当部分が決定され、本件契約社員の臨時手当(夏期賞与及び年末賞与)も、その支給額の算定方法が労使交渉の結果を踏まえて決定されたものであることをも踏まえると、正社員の夏期年末手当と本件契約社員の臨時手当(夏期賞与及び年末賞与)に関する算定方法等の相違は、不合理であるとは認められない。

この判決は、賞与の性質、支給目的に加え、職務の内容の相違を不合理性を否定する根拠としています。

 以上の様に、「賞与」に関してもその待遇差を不合理ではないとする裁判例が多いものの、次のように違法とした裁判例も見られます。

 

 大阪高裁平成31215日(大阪医科薬科大学事件控訴審)判決

 ①給与規則の中に定めはないものの、正職員に対しては、年2回の賞与が支払われており、一方,アルバイト職員に対しては、アルバイト職員就業内規で賞与は支給しないと定められている。

②賞与は、月例賃金とは別に支給される一時金であり、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものである。

③明確な定めはないものの、正職員に対して支給されていた賞与は、旧来から通年で概ね基本給の4.6か月分(平成26年度は夏期につき2.1か月分+2万3000円、冬期につき2.5か月分+2万4000円)との額であったことが認められる。賞与の支給額は、正職員全員を対象とし、基本給にのみ連動するものであって、当該従業員の年齢や成績に連動するものではなく、被控訴人の業績にも一切連動していない。このような支給額の決定を踏まえると、被控訴人における賞与は、正職員として被控訴人に在籍していたということ、すなわち、賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有するものというほかない。そして、そこには、賞与算定期間における一律の功労の趣旨も含まれるとみるのが相当である。

④被控訴人における賞与が、正職員として賞与算定期間に在籍し、就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する以上、同様に被控訴人に在籍し、就労していたアルバイト職員、とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し、額の多寡はあるにせよ、全く支給しないとすることには、合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理というしかない。

⑤被控訴人の賞与には、功労、付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨が含まれ、不合理性の判断において使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。さらに、正職員とアルバイト職員とでは、実際の職務も採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきであるから、アルバイト職員の賞与算定期間における功労も相対的に低いことは否めない。これらのことからすれば、フルタイムのアルバイト職員とはいえ、その職員に対する賞与の額を正職員に対すると同額としなければ不合理であるとまではいうことができない。

⑥被控訴人が契約職員に対し正職員の約80%の賞与を支払っていることからすれば、アルバイト職員である控訴人に対し、その者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきである。

この判決は、待遇差の不合理性の判断枠組みについては他の裁判例と基本的に変わるようなことはないものの、実際の賞与の性質が賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する点に着目し、さらにアルバイト職員でない契約社員にも正職員の80%の賞与の支給があることを勘案し、職務内容に相違があることを考慮しても不支給は許されないとしたもので、かなり特殊な事案といえなくもなさそうです。