【連載コラム】同一労働同一賃金⑨通勤手当

同一労働同一賃金(通勤手当)

 

           弁護士 竹下 勇夫

 

前回説明したとおり、賞与に関しては、裁判例はおおむね通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の支給基準・ルールが異なることを理由にその待遇差が不合理ではないとする傾向にありますが、大阪医科薬科事件高裁判決のようなものもあり、また指針でも支給基準・ルールについての相違は不合理と認められるものであってはならないとされていますので、事業主としては、賞与についての待遇差の説明をも求められたときには、この点についても説明ができるように準備しておく必要があります。

 

次に各種手当の中で、重要と思われるものについて説明いたします。

まず通勤手当です。

厚労省の指針は、原則として、短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない、としています。

そのうえで、問題とならない例として、A社においては、本社の採用である労働者に対しては、交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給しているが、それぞれの店舗の採用

である労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給しているところ、店舗採用の短時間労働者であるXが、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができないところへ転居してなお通い続けている場合には、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給している、という例をあげています。

したがって、原則として差別してはならない、つまり通常の労働者に通勤手当を支給している場合には、短時間・有期雇用労働者にも同手当を支給しなければならず、かつ短時間・有期雇用労働者であることを理由として通常の労働者よりも低額・低率の通勤手当を支給することもだめですよ、ということです。

ただし、問題とならない例として挙げられているように、例えば店舗がたくさんあるスーパーマーケットにおいて、特定の店舗がその店舗でのみ働くことを前提として当該店舗の近隣に居住している人をパートさんと採用したような場合には、そのパートさんが自らの都合で店舗から遠距離に移住したような場合にまでその通勤保費用の実費相当額を支払わなくてもいいですよ、ということです。

念のため裁判例を見ておきます。

ハマキョウレックス最高裁判決(平成30年6月1日)は、「通勤手当は、通勤に要する交通費を補塡する趣旨で支給されるものであるところ、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。また、職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。加えて、通勤手当に差違を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。したがって、正社員と契約社員である被上告人との間で上記の通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものであるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」としています。

このような裁判例からも、実務的な取扱いとしては、指針が問題とならない例として挙げているような特別な場合を除いて、通勤手当に関しては、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間での差別的取扱いはしないことが無難といえます。

 

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