【東京ミネルヴァ法律事務所追報】預り金を流用した弁護士法人社員は破産免責によって債務を免れない

概要

6月24日付にて、東京ミネルヴァ法律事務所の破産が報じられましたが、その続報として、預り金に手を付けていたことが判明しました。

預り金とは、東京ミネルヴァ法律事務所の預金口座には預け入れられてはいるものの、実質的にはその固有の財産ではなく、顧客へ返金処理をしなければいけない金銭のことです。実質的には顧客の財産であるはずの預り金の流用について、破産手続きにおける位置づけなどを解説いたします。

なお、今回の東京ミネルヴァ法律事務所の破産は、第一東京弁護士会による債権者申立(一弁の債権は弁護士会費)だったようですが、単純な経営悪化だけではなく依頼者財産である預り金の流用が発覚したことで、対応を急いだものと考えられます。

2020年6月27日追記

本コラムは、以下の続報です。あわせて、ご覧ください。

「東京ミネルヴァ法律事務所の破産」について

破産財団と預り金

破産者が、破産時点において有していた一切の財産は「破産財団」という一つの財産のまとまりとして、破産手続き開始時点から、破産管財人という裁判所によって選任される弁護士に管理・処分権限が移行し、破産管財人が債権者に対して分配を行います。

もっとも、分配には様々なルールがあり、破産手続きとは関係なく回収が可能であったり、優先順位が定められていたりします。では、「預り金は破産手続きにおいて、どの様な位置づけなのか」がここでの問題です。

「預り金」に関する一般論

取戻権

まず、弁護士に対するものではない「預り金」一般について考えます。一般に「預り金」は、会計上は「負債」です。つまり、預け入れた人物は、相手方に対して預り金返還請求権という債権を持っているという関係性になるという意味では確かに「負債」です。

しかしながら、預り金は、それが適切に会社の財産と分別管理されている場合には、法的にはその財産の帰属自体が預託者にあると判断されるのです。この様な場合、預り金返還請求権は「取戻権」といって、破産財団に帰属しないと主張することで破産財団から取り戻すことが出来ることになります。

破産法
 第62条(取戻権) 破産手続の開始は、破産者に属しない財産を破産財団から取り戻す権利(略)に影響を及ぼさない。

「預り金」の流用

代償的取戻権

しかしながら、依頼者の財産である「預り金」を流用していた場合はどうか。

破産法上は、破産者が取戻権の対象財産を勝手に処分してしまった場合には、その目的物の反対給付の移転を請求することが出来るとされています。

典型的には、破産者が預った金銭を原資として破産直前に物品を購入したような場合を考えると、破産者(破産管財人)は、物品を受け取ることが想定されますが、取戻権者はその物品を自分によこせと請求することが出来るということです。

破産法第64条1項(代償的取戻権)

破産者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)が破産手続開始前に取戻権の目的である財産を譲り渡した場合には、当該財産について取戻権を有する者は、反対給付の請求権の移転を請求することができる。

損害賠償請求権は破産債権

しかし、破産者が購入した物品も既になくなっていたり、消耗により減価していたり、そもそも購入した物品の特定自体が出来ないということがほとんどです。この様な場合には、お金を預けた人物は、破産者に対して流用したお金に相当する、損害賠償請求権を取得します。

ただし、この損害賠償請求権は、「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」ですので、「破産債権」にしかなりません。破産債権は、共益債権・財団債権に次ぐ3番目の順位であり、一般の債権者と同じ立場に過ぎませんので、配当もほとんど受けられません。

破産法

第2条5号(定義)この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。

小括

以上のとおり、取戻権・代償的取戻権などがあるものの、一般の預り金では、流用された場合には破産債権の行使しかできず、回収の見込みは非常に低いと言えます。

なお、東京ミネルヴァ法律事務所の預かり金がこの様な一般の預かり金である場合には2万人とも言われる依頼者が各々破産債権の届け出を行う必要があります。

弁護士の預り金=信託財産?

これに対して、弁護士への預り金は別の考慮が必要になります。というのも、弁護士の預り金は「信託財産」だと言われています(商事法務発行・佐久間毅著「信託法をひもとく」12ページ以下など)。

信託とは、委託者が受託者に財産を託し、受託者がその管理・処分を行う契約です。東京ミネルヴァ法律事務所のケースでいえば、同法律事務所が受託者、各依頼者の方が委託者という関係になります。

東京ミネルヴァ法律事務所の主な預り金は過払金のようであり、これがどの様な契約に基づいてどの様に管理されていたのか不明確ではありますが、これが信託財産とされた場合、破産手続きにおいて特別な取り扱いがなされます。

受託者の損失填補責任は「免責許可決定の効力が及ばない」

信託が設定された場合、①受託者に対する穴埋め(損失補償)の責任と②信託財産を取戻す権利を「誰が」行使するのか、この両方を考えないといけないのでややこしいのですが、まずもって大事なことは、信託財産の使い込みの場合に、①旧受託者(東京ミネルヴァ法律事務所)がその穴埋め(損失補填)をする債務は信託財産との関係では「免責許可の効力が及ばない」という点です。実は、このことは破産法には書いておらず、信託法に書いてあります(信託法25条3項)。

もちろん、東京ミネルヴァ法律事務所自体は法人であり、免責という制度はありませんが、弁護士法人の社員は、無限責任を通じて法人と同様の債務を負います。

そのため、今回の東京ミネルヴァ法律事務所のケースでいえば、東京ミネルヴァ法律事務所の代表者その他の社員は、「無限責任」を通じて、個人破産をしても預り金の穴埋めをする債務からは解放されないということになるものと考えられます。

信託法
第25条 
1 受託者が破産手続開始の決定を受けた場合であっても、信託財産に属する財産は、破産財団に属しない。
3 第1項の場合には、破産法第252条1項の免責許可の決定による信託債権(略)に係る債務の免責は、信託財産との関係においては、その効力を主張することができない。

信託財産の取戻は「新受託者」が行う

また、信託財産の場合には、その受益権者(依頼者)が最終的な経済的な利益主体ですが、損失の回復は受託者が信託財産の管理行為として行います。

したがって、預り金の流用に関しては、各受益権者(依頼者)が直接請求するのではなく、破産管財人が東京ミネルヴァ法律事務所に代わる新たな受託者を選任し、その選任された新受託者において信託財産の取戻を行うことになると考えられます(なお、東京ミネルヴァ法律事務所の受託者としての任務は破産手続開始決定によって終了しております)。

新受託者は破産債権の届け出も行う

更に、ややこしいのですが、新受託者が有する損失の回復請求権は、破産手続きに参加して配当を受けることも出来ます。

したがって、新受託者は破産手続きにおいて損失の填補請求債権を破産債権として届け出て、配当を受けられなかった部分を、旧受託者の社員の固有財産に対して請求していくという手続きになるものと考えられます。

まとめ

弁護士の預り金は「信託法」の知識が絡むため、非常にややこしいのですが、これが信託財産と評価できる場合には、結論としては、以下のように整理できます。

  • 破産管財人が新受託者を選任し、新受託者が流用された預り金の回収を行う
  • 新受託者は破産手続きの中で流用された預り金の一部を回収する
  • 破産手続きで回収できない部分は免責されないので東京ミネルヴァ法律事務所の社員は今後も責任を負い続ける

注意点

新受託者が行うのはあくまで預り金(主に過払い金)の処理であり、それ以外の依頼していた事件の処理を新受託者が引き継ぐということにはならないため、自己破産などを弁護士法人ミネルヴァ法律事務所に依頼をしていた方は、別途、弁護士に依頼する必要がありますので、この点には十分にご注意ください。