「東京ミネルヴァ法律事務所の破産」について

弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所

2020年6月24日付けで東京ミネルヴァ法律事務所の破産が報じられました。法人の負債総額は52億円(2019年3月期決算時点)とのことです。

弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所は過払金やB型肝炎訴訟などを中心に全国的に出張法律相談を行い拡大していた法律事務所です。恐らく、多くの方がテレビCMで見たことがあるのではないでしょうか。

本コラムでは、破産に至った理由の推測、代表者の責任、依頼した事件の今後の処理などについて、コメントしたいと思います。

2020年6月27日追記

預り金流用に関してコラムを作成いたしました。あわせて、こちらもご覧ください。

【東京ミネルヴァ法律事務所追報】預り金を流用した弁護士法人社員は破産免責によって債務を免れない?

 

法律事務所としては過去最大の負債規模

負債額52億円は、弁護士法人としては過去最大の負債規模とのことです。法律事務所は家賃・人件費が基本的な経費であり、東京ミネルヴァ法律事務所のような法律事務所では広告費にも相当程度お金かけていたものと推測されます。

しかしながら、製造原価のかからない法律事務所という業態で負債規模52億円というのは余りにも大きい様に思います。特に、東京ミネルヴァ法律事務所は弁護士8人程度の体制とのことですから、なおさらです。

弁護士の人数がそれほど多くないにもかかわらず負債がここまで膨らみ、破産にまで至った理由は、広告費もありますが、事務職員(パラリーガル)の人件費もかなり大きかったのではないかと思います。

というのも、過払金請求やB型肝炎訴訟は、事務処理がかなり定型化しており、この手の問題を専門的に扱う法律事務所では、弁護士数名に対して事務職員が100名規模で在籍していることも稀ではないからです

過払金は既にほとんどなくなっている

弁護士法人ACLOGOSのコラムや債務整理のページでも何度か取り上げていますが、実は、テレビCMでよく聞く「過払金」はほとんどなくなりつつあります。

過払金は、平成18年に最高裁判決が出たことでグレーゾーン金利に利息制限法が適用されることが明確になったため、支払い過ぎた金利の返還を求めるものです。しかしながら、平成18年の最高裁判決以降、消費者金融各社は金利条件の見直しや過払金が発生しそうな案件の取り立ての中止などの対応を行っており、闇金以外では、徐々に利息制限法を超過する利息設定はなくなっていました。また、過払金請求権の消滅時効は取引終了後から10年で消滅時効により消滅するため、最高裁判決から既に15年が経とうとする現在では消滅時効期間の満了により消滅しているものが大多数なのです。

過払金が極めて少なくなっているという実態を明らかにせず、「お金がかえって来る可能性がある」と煽って集客することは、率直に言って、弁護士・司法書士の倫理に反するものと考えておりましたが、結局のところ、集客をしても過払金自体はどんどん減っている状況ですから、それに見合う受任件数や利益確保が出来なかったのだろうと思います。

弁護士の業態は薄利多売に向いておらず、広告費は依頼者の負担純増につながりやすいため、注意が必要です。

代表者の責任は?

もう一つ東京ミネルヴァ法律事務所の破産で気になるのは、現在の代表者は登録番号が40000代の比較的若い弁護士になっている点です(川島浩弁護士)。

CMで見たところでは1~2年前までは、比較的高齢の河原正和弁護士が代表であったことから、ニュースを見たときには「アレ?」と思いましたが、どうやら河原弁護士は既に東京ミネルヴァ法律事務所から離れて別の法律事務所に加わっている様です。

ただ、弁護士法人の代表者やその他の社員(※従業員とは違います。弁護士法人では出資をした共同経営者のことを「社員」といいます。)は「無限責任社員」といって、法人の負債も個人が負担する立場にあります。そのため、弁護士法人の社員が退社しても、退社の登記をする以前に発生した負債については、結局責任を負うことになるものと思われます。

追記:業務執行社員の会社に対する損害賠償

2020年6月27日追記:弁護士法30条の15第7項により会社法612条2項が準用されており、責任を負担する期間は退社の登記から2年間となっています。河原弁護士は平成29年8月16日に脱退に退社しているようであり、弁護士法に基づく無限責任は既に消滅しているものと考えられます。

(退社した社員の責任)
会社法第612条 退社した社員は、その登記をする前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う。
2 前項の責任は、同項の登記後二年以内に請求又は請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後2年を経過した時に消滅する
しかしながら、少なくとも預り金の流用については、業務執行社員の会社に対する損害賠償請求(弁護士法30条の30による会社法595条準用)によって、破産管財人である岩崎晃弁護士から、責任追及される可能性はあるのではないかと考えられます(時効期間は10年)。
(業務を執行する社員の持分会社に対する損害賠償責任)
会社法第596条 業務を執行する社員は、その任務を怠ったときは、持分会社に対し、連帯して、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

受任した事件の処理は今後どうなる

東京ミネルヴァ法律事務所が電話がつながりにくいという様な問題は、少し前から発生していた様であり、既に東京弁護士会では問い合わせ窓口を作っていた様です(03-3595-8508)。

しかしながら、破産となれば事件処理を継続することはできないので依頼者は個々に新たな弁護士を探す必要がありますし、支払い済みの着手金の返金はなかなか難しいと思います。

もっとも、債務整理については、法テラスを利用して着手金の立替払いを受けることで事件処理を完遂することは可能である様に思います(法テラスは弁護士費用を立替えてくれる公的機関ですが、法テラス利用が可能な法律事務所とそうでない法律事務所があります。)。

なお、東京ミネルヴァ法律事務所のCMは沖縄でもよく見かけましたので、もし「沖縄で東京ミネルヴァ法律事務所に依頼したがどうしていいかわからない」という方は、ご相談いただければ弊所にて対応いたします(法テラス利用可)

また、もしかしたら今後は各地の弁護士会でも相談窓口が設置されるかもしれませんので、そうした窓口を通じて相談をされるのも良いのではないかと思います。