【不動産】5つの「不動産価格」と民事事件での役割

5つの不動産の価格

売買トラブル、相続(遺産分割・遺留分減殺)、共有物分割など、「土地」にまつわる紛争は多くありますが、こうした争いの中で重要なのは対象となっている不動産の「価値」・「価格」です。

不動産の価値は当然、買い手の用途や目的に応じて変動しますし、また、どの様な目的で設定された価格なのかによっても違いが発生します。

本コラムでは以下の5つの不動産価格について、その法律的な意義を解説します。

  • 固定資産評価額(固定資産の課税標準額)
  • 路線価(相続税路線価)
  • 公示地価/基準地価
  • 不動産鑑定評価額

固定資産評価額(固定資産税の課税標準額)

固定資産評価額は、その名のとおり、固定資産税を賦課するために設定された評価額であり、毎年1月1日を基準として、総務大臣が定める基準により各市町村が定めます。

固定資産税は毎年課税されるものであり、安定性や確実性が重視されることから、公示地価と比較して70%程度に設定され、また、評価の改定も3年に1回となっています。よく「固定資産評価額は相場の7掛け」という話がありますが、これは意図的に取引価格の70%程度となるように設定しているのです。

徴税をする場合、迅速かつ画一的な処理が必要であり、特に固定資産税の場合は毎年課税され、賦課対象も多数存在します。この様な性質を持つ固定資産税評価額が、実際の取引価格よりも上回って課税されてしまった場合、返金などの処理が恐ろしく煩雑であることから、控えめな評価額となっているのです。

路線価(相続税路線価)

一般に「路線価」とは、国税庁の公表している財産評価基準書に基づく路線価を言います。

これは、相続税徴収のために設定される価格です。相続税は「相続」という特別なイベントが発生した場合に相続人からの申告に基づいて課税するものですから、固定資産税と比較すれば件数も少なく、画一性も低いことから、固定資産税評価額よりは実際の取引価格に近く、公示地価と比較して80%程度に設定されます。

ただし、固定資産税評価額は市町村が金額まで明示しますが、路線価は計算方法しか開示されていないので、個別の土地の評価額を知るためには専門家に依頼したり、自分で国税庁のWEBサイトなどを見て計算しなければなりません。

公示地価/基準地価

公示地価と基準地価は非常によく似ており、いずれも、国や地方公共団体が公表している「取引相場」です。いずれも、地域ごとに基準となる地点を定めその地点の取引相場を毎年公表しています。

したがって、大まかな取引相場を知るためには、公示地価/基準地価は有用ですが、自分で国土交通省のWEBサイトなどを見て計算しなければなりません。また、一定地点(標準地・基準地)サンプル調査という性質上、同じ地域内でも調査対象地点と離れていたりすると比較が出来ません

公示地価と基準地価の違い

公示地価と基準地価の主な違いは下表のとおりです。

公示地価 基準地価
調査者 都道府県
評価時点 1月1日 7月1日
発表時期 3月下旬 9月下旬

なお、これ以外にも鑑定士が1名か2名か、地点の名称が「基準値」か「標準値」かなどの相違はありますが、一般の方が利用する分には、両方とも大体の取引相場を知るためのものと考えていただいて問題ありません。

不動産鑑定評価額

不動産鑑定評価額は、特定の土地について、不動産鑑定士がその職務として評価を行うものです。

したがって、その鑑定評価額は、一般に信頼性が高いと言えますが、他方で、有資格者に特別に依頼するものですから、費用もそれなりにかかります(1筆20万円程度~)。

ただし、不動産鑑定は、その不動産の目的・用途の設定(貸地、自用地など)や求める価格の種類(正常価格、限定価格、特殊価格、特定価格)によって大きく変わってきます。そのため、不動産鑑定を依頼する際には、不動産の目的・用途や求める価格の種類をよく検討しないと、せっかく費用を出して鑑定をしたのに使えないというリスクがあります。

なお、不動産事業者が売買の参考資料として作成する「査定書」や不動産鑑定士による「価格調査書」などは、不動産鑑定評価ではなく、判決などによって認定する場合には信頼度もそれほど高くはありません。

もっとも、大体の相場感を知る手段として、和解の際にはその数値を前提に計算するなど、実務的にはよく利用されています。

不動産鑑定における価格の種類
正常価格

特別な条件設定(売り急ぎなど)がない、通常の取引で形成される価格を言います。

限定価格

特定の立場にある者との間で形成される価格を言います。

例えば、底地所有者と建物所有者との間の売買は、底地又は建物を第三者に売却する場合とは考慮すべき条件や取引によって得るメリットが異なります。限定価格は特別な立場にある者同士での取引における価格です。

特定価格

一般の市場とは異なり、倒産処理手続きにおいて早期売却価格を算定する場合や事業再生手続きにおいて(市場での最有効活用を前提するのではなく)当該事業での継続的利用を前提として算定する場合など、通常の市場取引の前提条件を欠いた状況での取引価格を言います。

特殊価格

文化財など市場性がない不動産についての価格です。

民事紛争での役割

民事裁判は証拠=事実

よく「どの価格が有効ですか?」というような質問を受けますが、裁判所では当事者が主張・立証をしなかったり、金額に争いがなければ実際の相場と離れた金額であっても認定されます(※)。その意味では、どの価格も有効になり得ますし、どの価格とも違う価格が認定される可能性もあります。

※相対的真実といって、民事裁判ではその裁判の中で提出された証拠が「事実」になります。

価格の信頼度

価格についての争いが生じて、複数の不動産価格について証拠が提出された場合、その際の信頼度は、一般的には、不動産鑑定評価額➡公示地価/基準地価➡路線価➡固定資産評価額と言えます。

価格の信頼度

  • 不動産鑑定評価額➡公示地価/基準地価➡路線価➡固定資産評価額

ただし、公示地価/基準地価は地点ごとのサンプル調査なので、地点のズレが大きい場合はあまり参考になりませんし、不動産鑑定評価でも前提条件が違っていると役に立たない場合もあります。

価格について争いが生じたときの手順

不動産の金額について争いが起こった際、いきなり不動産鑑定をするというケースはそれほど多くありません。

手順としては、明らかに価値が低そうな場合には、固定資産評価額や相続税申告の際に調べてもらった路線価を前提に話を進めても問題はありません。他方、金額がよくわからない場合には、公示地価/基準地価を調べたり、不動産業者の簡易査定や不動産鑑定士の価格調査を利用してみることになります。

その結果、相手方の主張する金額のズレが大きい場合には、不動産鑑定をしたり、実際に裁判所の手続内で売却するなどの手続きを取ることになりますが、金額のズレがそれほど大きくない場合には、鑑定評価や売却には手間や費用がかかることも考えて、相手方の主張と見比べて中間的な金額で合意することもあります。

民事紛争では不動産は「時価」で評価しますが、一口に「時価」と言っても、客観的・一義的にはなかなか決まりません。いきなり鑑定をして後でガッカリすることが無いように、どういった不動産価格調査をしたらよいかについては、予め弁護士にご相談ください。

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