瓦版ACLOGOS(6)

瓦版ACLOGOS(6)

令和6年6月24日に最高裁判所において、地方住宅供給公社の住宅を賃借していた賃借人が、公社の改定した賃料のうち適正賃料を超える部分は効力を生じないとして過払家賃の返還等を求めた事案において、地方公社は、地方住宅供給公社法24条の委任を受けた地方住宅供給公社法施行規則16条2項に基づき、その賃貸する住宅の家賃を変更することができ、同項は、借地借家法32条1項(賃料増減額請求権)に対する特別の定めに当たるから、公社住宅の使用関係について、同項の適用はない旨判断した原審を破棄し、差し戻した判決がありました。

借地借家法32条1項

借地借家法32条1項は、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」と定めています。通常は賃貸人が賃料を増額する際に使われるのですが、バブル崩壊以降、賃借人が現行賃料を減額する場合にも使われています。

本件は、住宅供給公社が賃貸している住宅にも借地借家法32条1項が適用され、賃借人が賃料減額請求権を行使できるか否かが争われたものであり、原審はこれを否定したのでした。

最高裁判所による差し戻し

これに対し、最高裁判所は同法32条1項の適用を認め、さらに審理を尽くさせるため、本件を差し戻しました。その理由は以下のとおりです。

第1に、地方公社の業務として賃借人との間に設定される公社住宅の使用関係は、私法上の賃貸借関係であり、法令に特別の定めがない限り、借地借家法の適用があるというべきである、としました。

第2に、公社法24条及び同法施行規則16条2項が「法令に特別の定めがある」場合に該当するか否かの点について、「他の法令により特に定められた基準がある場合においてその基準に従うほか、国土交通省令で定める基準に従って行なわなければならない。」と規定する公社法24条の趣旨は、地方公社の公共的な性格に鑑み、地方公社が住宅の賃貸等に関する業務を行う上での規律として、他の法令に特に定められた基準に加え、補完的、加重的な基準に従うべきものとし、これが業務の内容に応じた専門的、技術的事項にわたることから、その内容を国土交通省令に委ねることにあると解され、当該省令において、公社住宅の使用関係について、私法上の権利義務関係の変動を規律する借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対し、同項所定の賃料増減請求権とは別の家賃の変更に係る形成権を付与する旨の定めをすることが、公社法24条の委任の範囲に含まれるとは解されないとし、次いで、同条の委任を受けて、「地方公社は、賃貸住宅の家賃を変更しようとする場合においては、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変動等を総合的に勘案して定めるものとする。この場合において、変更後の家賃は、近傍同種の住宅の家賃を上回らないように定めるものとする。」と定める同法施行規則16条2項は、地方公社が公社住宅の家賃を変更し得る場合において、他の法令による基準のほかに従うべき補完的、加重的な基準を示したものにすぎず、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対して上記形成権を付与した規定ではない、としました。

そして、このほかに、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用が排除されると解すべき法令上の根拠はないとして、結論において、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用があると解するのが相当である、としました。

公社住宅の賃料増減請求について判断した裁判例は珍しく、かつ、実務的にも参考になるものと思い紹介しました。