【建築】1億4000万円の請求全額を排除した事例

概要

本件は、事業を行うにあたり、事業者と出資者(事業計画などにも関与)が、事業用施設の完成間際に仲違いをしてしまい、以下の2つの裁判が先行して行われていました。

① 出資者から事業者に対して、出資金及び配当金の支払いを求める裁判

② 事業者から出資者に対して、事業計画よりも収益が低下したこと等に対する損害賠償を求める裁判

依頼者様は、事業用施設の設計・施工管理などを行った建築会社であり、上記裁判の過程で、事業者側は、収益性の低下は建築会社にも責任があると考えるに至ったため、事業者側が建築会社に対して「訴訟告知」を受けたため、相談にいらっしゃったものです。

訴訟告知とは?

訴訟告知の概要

訴訟告知(民事訴訟法第53条)とは、訴訟の一方当事者が、事件に関係する第三者に対して、関連する訴訟が行われていることを知らせることを言います。

第三者からすれば、この告知を受けることで、自分に関係がある裁判が行われていることを知ることができ、訴訟告知を受けた者は、どちらか一方の支援・応援をするために参加するかどうかを判断できます。

なお、当事者の一方を支援・応援するために訴訟に関与することを「補助参加」と言います。

訴訟告知は無視しても良い?

告知を受けた事件が関連ある事件だとしても、告知を受けた者が、訴訟の当事者になるわけではありません。

そうだとすれば、訴訟告知を受けても、無視しても良いのではないかと思われるかもしれませんが、この点は十分な注意が必要です。

参加的効力

補助参加人は、訴訟の一方当事者に参加(支援・応援)する立場であり、いわば「共同戦線」を張ることになります。ただ、訴訟の当事者ではないので、判決の直接の効力は補助参加人には及ばず、補助参加人と対立する当事者が補助参加人に対して請求を行う場合は、別途、裁判が必要になります。

しかし、補助参加人が共同して争って敗訴したのに、別の裁判では、補助参加人としての主張は考慮せず、ゼロから審理をするというのは、非常にムダが多いですし、また、補助参加して敗訴したときと、180度主張を変更しても良いというのは、いくら何でも、信義則(民法1条2項)に反します。

そこで、補助参加をして敗訴をした場合には、「前の裁判の主張と矛盾する主張をしてはいけないという効力」=参加的効力が発生します(民事訴訟法46条)。

訴訟告知にも参加的効力がある!

前置きが長くなりましたが、共同して戦った参加人に参加的効力が発生しますが、共同すべき立場なのに、共同せずに放置した場合にも、法律は同じく参加的効力を認めています(民事訴訟法46条、同法53条4項)。

そのため、訴訟告知を受けた場合、「原告・被告ではないから終わるまで放っておこう」と、無視してしまうことは、極めて危険です

訴訟告知には参加的効力という法律上非常に強力な効果がありますので、訴訟告知を受けた場合には、被告として裁判を起こされたときと同レベルの緊張感をもって対応を検討する必要があります。また、訴訟参加は、民事訴訟に精通していないと弁護士でも理解が不十分な場合があり、3者間の問題にもなるため非常に複雑です。

したがって、参加的効力が及ぶ範囲の検討や、具体的な訴訟の主張・立証状況から訴訟参加を行うか否かは、必ず弁護士に相談をする必要があります。

【民事訴訟法】
(補助参加人に対する裁判の効力)

第四十六条 補助参加に係る訴訟の裁判は、次に掲げる場合を除き、補助参加人に対してもその効力を有する。

一 前条第一項ただし書の規定により補助参加人が訴訟行為をすることができなかったとき。
二 前条第二項の規定により補助参加人の訴訟行為が効力を有しなかったとき。
三 被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げたとき。
四 被参加人が補助参加人のすることができない訴訟行為を故意又は過失によってしなかったとき。
(訴訟告知)
第五十三条 当事者は、訴訟の係属中、参加することができる第三者にその訴訟の告知をすることができる。
2 訴訟告知を受けた者は、更に訴訟告知をすることができる。
3 訴訟告知は、その理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してしなければならない。
4 訴訟告知を受けた者が参加しなかった場合においても、第四十六条の規定の適用については、参加することができた時に参加したものとみなす。

事案の処理

訴訟告知時点での審理状況

本件では訴訟告知の時点で、

① 出資者から事業者に対して、出資金及び配当金の支払いを求める裁判

② 事業者から出資者に対して、事業計画よりも収益が低下した等に対する損害賠償を求める裁判

2つの裁判が争われており、既に、証人尋問の期日も決まり、訴訟も大詰めの段階にありました。

しかしながら、その段階に至っているにもかかわらず、出資者は事業施設の具体的な計画の変遷などについては十分に把握しておらず、建築関係図書の分析等も全く行われておりませんでした。

受任後の作業内容

そのため、受任後直ちに、以下の作業を行いました。

① 補助参加の申出を行う

② 既に決まっている証人尋問の日程変更を要請する

③ 受任後1通目の書面としては相当詳細な事実関係を書き込んだ準備書面を提出する

④ 万が一、裁判所が証人尋問を行う場合に備えて、建築会社担当者の証人申請と尋問準備を行う

これを受けて、裁判所としても、まだ主張・立証が足りていないため、証人尋問を実施出来ないと判断し、証人尋問は一旦取り消されて、建築会社からの更なる具体的主張・立証を行うことになりました。

事案の結末

本件の事案自体は、損害賠償の算定根拠とされている、用地の減少や収益計画自体が、相当に無理のある内容であったことから、その後、1年程度かけて具体的・詳細な主張立証を重ねました。

結果としては、裁判所は、出資者に対する一部返金のみ、参加人である建築会社には一切の負担がない和解を勧告し、これを当事者全員受け入れ、事案が終了いたしました。

本事案では、訴訟告知時点で、「参加する必要が無いのではないか」という意見もありましたが、出資者の主張立証が不十分であったために、事業者からの損害賠償請求が成立する可能性が非常に高かった事案でした。

そのため、もし補助参加することなく、原告被告に任せておいて出資者が敗訴してしまった場合。その後、事業者は建築会社に対しても裁判を起こすことは明らかですが、その際には、「参加的効力」によって、既に手遅れとなる可能性があったことを意味します。

上述したとおり、「訴訟告知」には、法律上の効果(参加的効力)が伴います。原告・被告ではないからと楽観視することなく、必ず、弁護士までご相談ください。