令和2年10月22日
【退職金】に関する最高裁の判例が示されました
弁護士法人ACLOGOS
弁護士 竹 下 勇 夫
メトロコマース事件の最高裁判決により、正社員に支給される退職金が契約社員には支給されないという待遇差について、本件事案のもとにおいては不合理とはいえないとの判断が示されました。
この事件の原審である東京高裁は、次のように述べて不合理だとしていました。「有期労働契約は原則として更新され、定年が65歳と定められており、実際にも定年まで10年前後の長期間にわたって勤務していたこと、契約社員から無期の職種限定社員に変更された者に退職金制度が設けられたことを考慮すれば、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金すら一切支給しないことは不合理」である。
大きな反響を呼んだこの高裁判決が維持されるのか覆されるのか、最高裁の判断が注目されていました。最高裁は高裁の判断を覆し、次のように述べて退職金不支給という待遇差は不合理とはいえない、と判断しました。
本件退職金の性質、目的について、
上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。と認定しました。
そして、正社員と契約社員との間で職務の内容に一定の相違があり、また職務の内容及び配置の変更の範囲にも一定の相違があることを認めたうえで、「その他の事情」として、次のように述べています。
第1審被告は、契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については、第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり、労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。
そのうえで、
第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。としました。
この事案では、上記判決も述べているとおり、契約社員の勤務期間が通算して10年前後という契約社員としてはかなり長期間勤務している者についての事案でしたが、このような場合でも契約社員に対する退職金の不支給は不合理ではないとされました。そうなると、一般論として通算期間が5年を超えるような長期の契約社員について原則退職金の支給は不要と考えてもいいのかどうか、ということが問題となります。
最高裁は、不合理性判断の考慮要素としての③「その他の事情」として、売店業務に従事する職員についての再編成の経緯とともに、正社員への登用制度があることを挙げています。同じ日に言い渡された大阪医科薬科大学事件においても、すでにこのコラムで述べたとおり、最高裁は正社員登用制度があることを「その他の事情」のひとつに挙げて、賞与の支給不支給の待遇差を不合理ではないと判断していました。
こうしてみると、最高裁は無条件で賞与や退職金についての待遇差を不合理ではないとしているのではなく、当該アルバイト職員や契約社員の職務についての過去の経緯や、正社員登用制度の有無など、総合的に判断しているのだと考えられます。特に継続的な勤務が見込まれる契約社員の場合、正社員登用制度がない場合にも上記最高裁の判断が維持されるかどうかは判然としません。
(続)