新判例紹介
中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに、同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には、いわゆる全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り、先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しないものと解するのが相当である。 ―最高裁令和2年9月3日判決―
この判決は、事業協同組合の理事の選出に関する事案ですが、株式会社の取締役や監査役の選任に関する場合にも同様の結論になると思われます。
この判決の結論を株式会社に当てはめると、以下のようになります。
株式会社の取締役を選出する株主総会の取消しを求める訴えに、同総会が取り消されるべきものであることを理由として後任取締役を選出する後行の株主総会の効力を争う訴えが併合されている場合には、いわゆる全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り、先行の株主総会の取消しを求める訴えの利益は消滅しないものと解するのが相当である。
最高裁昭和45年4月2日判決の判断
株主総会決議取消の訴は形成の訴えであるが、役員選任の総会決議取消の訴が係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消を求める選任決議に基づく取締役ら役員がもはや現存しなくなったときは、右の場合に該当するものとして、特別の事情のないかぎり、決議取消の訴は実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至るものと解するを相当とする。
検討
一見すると分かりにくいですが、今回の判決内容は、昭和45年判決と比べると、特別の事情の主張・立証について、会社側にその責任を負わせていると考えられることができます。
- 令和2年判決「特段の事情がないかぎり、先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しない」
- 昭和45年判決「特別の事情のないかぎり、決議取消の訴は実益なきに帰し、訴の利益を欠く」
実務上、全員出席総会(当該株式会社の株主全員が総会に参加する総会)に匹敵するような特段の事情の存在を主張・立証することはかなり困難を伴うものと考えられますから、もし役員選任の株主総会の決議が取消されると、その後の株主総会の効力に影響を及ぼすことになり、株式会社においては、今後取締役等選任の議案における株主総会に際しては、決議取消しの主張が出ないよう更なる配慮が必要になると思われます。