【新判例紹介 大阪医科薬科大学事件】大学の教室事務員である正職員に「賞与」および「私傷病欠勤中の賃金」を支給する一方で、アルバイト職員に支給しないことは不合理ではないとした事案

【新判例紹介】最高裁令和2年10月13日判決(大阪医科薬科大学事件)

大学の教室事務員である正職員に対して 1 賞与を支給する一方で、アルバイト職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違 2 私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で、アルバイト職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、いずれも労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。―最高裁令和2年10月13日判決―(大阪医科薬科大学事件)

原審大阪高裁(平成31年2月15日判決)の判断

正職員に対して賞与を支給しているのに、アルバイト職員には賞与を支給しないのは不合理であり、契約職員に対しては80%の賞与を支払っていることからすれば、アルバイト職員に対しても正職員の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は、不合理な相違である。

フルタイム勤務で契約期間を更新しているアルバイト職員に対して、私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと、休職給の支給を一切行わないことは不合理というべきである

と判断して、最高裁の判断が注目されていた事件です。

今回の最高裁判決は、上記高裁の判断を覆して、アルバイト職員に対して賞与の不支給及び私傷病による欠勤中の賃金の不支給を不合理とはいえない(払わなくてよい)としたものです。

 【1.賞与について】

賞与の性質について

上記賞与は、通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており、その支給実績に照らすと、第1審被告の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして、正職員の基本給については、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、第1審被告は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。

「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」について

両者の業務の内容は共通する部分はあるものの、第1審原告の業務は、その具体的な内容や、第1審原告が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると、相当に軽易であることがうかがわれるのに対し、教室事務員である正職員は、これに加えて、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり、者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また、教室事務員である正職員については、正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し、アルバイト職員については、原則として業務命令によって配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違があったことも否定できない。

「その他の事情」について

 アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情については、教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり、労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下、職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

以上の様に指摘して、正職員とアルバイト職員との間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまでは言えないと判断しました。

但し、本件は事例判断であり、個々の会社における正社員と有期契約雇用社員との賞与の支給に係る相違については、それぞれの会社ごとに個別に判断することが必要です。本件の場合にも、アルバイト職員ではなく、正社員に準ずるものとされる契約社員には正社員の80%に相当する賞与が支給されていたという事実がありました。この点はご注意いただきたいと思います。

【2.私傷病による欠勤中の賃金の不支給について】

原審の大阪高裁判決

アルバイト職員も契約期間の更新はされるので、その限度では一定期間の継続した就労もし得る。アルバイト職員であってもフルタイムで勤務し、一定の習熟をした者については、被控訴人の職務に対する貢献の度合いもそれなりに存するものといえ、一概に代替性が高いとはいい難い部分もあり得る。そのようなアルバイト職員には生活保障の必要性があることも否定し難いことからすると、アルバイト職員であるというだけで、一律に私傷病による欠勤中の賃金支給や休職給の支給を行わないことには、合理性があるとはいい難い。

私傷病欠勤中の正職員に対する賃金の支給目的について

正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと、同賃金は、このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。

正職員とアルバイト職員の対比

アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば、教室事務員であるアルバイト職員は、上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない。

結論

教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものとはいえないとしました。

 正社員には夏期に5日の夏期特別有給休暇が付与されるのに対し、アルバイト職員に付与されていないことについて

原審の大阪高裁が「少なくとも、控訴人のように年間を通してフルタイムで勤務しているアルバイト職員に対し、正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは不合理であるというほかない。」

としていた判断を是認し、夏期特別有給休暇の日数分の賃金に相当する損害金の支払いを認めています。この点についてもご注意ください。