違います。遺留分侵害額(減殺)請求を回避することは出来ません
遺留分とは?
遺留分の意義
遺留分とは、相続が発生した場合において、遺言書や生前贈与、遺贈などがあった場合に、相続人の取り分が極端に少なくなってしまうことが考えられますが、この様な場合に、相続人に対する「最低限の保障」として、法律上認められている取り分を言います。
遺留分の算定の基礎となる財産(みなし相続財産)
遺留分算定の基礎となる財産は、①死亡時に残存していた遺産、②生前贈与された財産、③遺贈された財産(遺言書で贈与された財産)、④死因贈与された財産が含まれます。
なお、生命保険金は原則としてみなし相続財産に含まれませんが、保険金額が相続財産に対して50%を超えるなど、多額である場合には、みなし相続財産に含まれることになります。
また、具体的相続分の計算とは異なり、遺留分の計算においては、「持ち戻し免除の意思表示」(生前贈与など特別受益が合っても、これをみなし相続財産に含めないという意思表示)があっても無視されます。
遺留分権利者・遺留分の割合
遺留分の割合は、相続人が誰なのかによって変わります。注意を要するのは、相続人が「兄弟姉妹」の場合には遺留分は認められません。兄妹姉妹は被相続人との結びつきが子や親に比べたら希薄ですので、亡くなった方(被相続人)の遺志に反してまで、財産的な保障をする必要がないという、政策判断です。
相続人 | 割合 |
子 | 法定相続分の1/2 |
親 | 法定相続分の1/3 |
信託と遺留分に関する議論
後継ぎ遺贈型受益者連続信託の実体は相続
相続に信託を活用するスキームは、2007年(平成19年)の信託法改正以降のものですが、信託はそれまで法律家でもあまりなじみのない分野であったことを受けて、様々な法解釈が乱立していました。
その中で、特に、民事信託を相続に活用するメリットとして「民事信託を活用すれば遺留分は回避できる。」という主張をするまことしやかな話しが、司法書士を中心に出てきました。
理屈としては、後継ぎ遺贈型受益者連続信託の場合、一次受益権者が死亡すると信託は消滅(したがって、受益権も消滅)し、改めて、後継ぎとして指定された受託者のもとで受益権が発生するため、受益権が相続されているわけではない。したがって、遺留分侵害にはならないという言い分です。
これが成り立つとすれば、遺留分の規制を回避することは容易です。しかしながら、これは全くの形式論であり、実体としては相続であり、課税も相続税課税となります。
そのため、形式的に遺留分を回避しようとしてもできないということは、学説上は異論がないと考えられますし、その様な判断を行う裁判例も出てきました(東京地裁平成30年9月12日判決など)。
遺留分対策しても信託が無効になる?
東京地裁平成30年9月12日判決
遺留分制度を潜脱(法律逃れ)する目的で行った信託の場合には、遺留分侵害によって金銭の請求を求められる可能性があるだけではなく、「無効」となるリスクすら存在します。
東京地裁平成30年9月12日判決では実際に、その様な判断が下されています。この事案では、遺留分対策として「自宅及び物置」や「賃貸などが想定されない土地」など、実質的には価値のない不動産について受益権を与えていました。
しかし、運用が出来ない不動産の受益権を与えられたところで、経済的には価値がありません。この様な、「形だけ信託」は、遺留分制度を回避するために行われた公序良俗違反(民法90条)に違反する無効なものであるとしました。
営業トークに流されてしてしまった契約は見直しと金銭の返還を。
筆者も4~5年ほど前に司法書士が主催する民事信託の勉強会に参加したところ、「遺留分を回避できる。」と明言していたため、質疑応答で「信託の形を取ったから遺留分を回避できるとは俄かに信じられない。」と意見を述べたところ、その司法書士は「絶対に大丈夫。」とまで言い切っていました。
遺留分制度が強行法規であることは、法律専門職であれば当然知っていることです。にもかかわらず、形式的には肯定・否定説が成り立つことを利用して、もし後から裁判で間違っていたら「当時は両論あった。」と逃げるのは、非常に不誠実であり、士業としての倫理に完全に違反しています。
士業者が意図的に不誠実な営業を行っているという現実を目の当たりにして、私自身もショックでしたが、実際に存在します。そして、現代社会では、広告にお金さえかければ簡単に目の届くところに行ってしまいます。
こうした営業トークによって高い費用を払って設定した民事信託が世間には多数あるものと考えられますが、すぐに信託契約の見直しと信託契約設定に際して支払った金銭の返還を求めていくべきです。
民事信託に節税や遺留分回避を求めるのは誤りです
民事信託の利点は「自由度の高さ」
民事信託では、関心を買うために、「遺留分侵害額(減殺)請求を回避できる。」とか、「複層化により大きな節税効果がある」とか、将来的なリスクが多分に存在することを隠した広告があふれかえっています。
しかしながら、民事信託の最大の利点は、死後の「財産の承継の自由度が高い」という点にあり、それ以外の目的で利用することは勧めません。
「自分が築き上げた財産を、次代に承継していく」という本来の目的で考えたとき、民事信託の有用性は十分にあると思っております。
沖縄の相続と民事信託
沖縄県では、軍用地があり、軍用地は将来の収益の推測が非常にやりやすいことから、民事信託に適しています。そのため、これまでにも信託契約をした方も多数いると思いますし、信託のスキームも立てやすいという特徴があります。
民事信託に関する解釈もある程度集積してきた今だからこそ、民事信託の設定・信託契約の見直しをご検討ください。