【相続】沖縄の相続に特徴はありますか?

あります。沖縄の相続は非常に特徴的です

相続は、亡くなった方(被相続人といいます。)が、生前に築いた財産を分配するものですので、被相続人の遺志が重視される法体系となっています。

また、相続では、単純な財産的側面に限らず、祭祀や精神的繋がりなども関係してくるため、地域性が非常に出やすいといえます。

本コラムでは、沖縄県の相続の特徴について解説いたします。

沖縄の相続の特徴① 軍用地の相続

沖縄の軍用地の特徴

沖縄の相続といってやはり特徴的なのは「軍用地」の存在でしょう。

全国的には軍用地は国有地が多いのですが、沖縄県の場合は、「銃剣とブルドーザー」によりアメリカ軍に強制的に収用されたという過去から、軍用地に占める「私有地」の割合が極めて高いのです。

その割合は、沖縄県全体で民有地が40%程度、嘉手納以南ではなんと民有地が90%近くに及びます(なお、沖縄県外では逆に90%程度が国有地です)。

この様な経緯から、沖縄県の相続では、相続財産に軍用地が含まれるケースがあり、この点は他県ではあまり見られない大きな特徴です。

※ 出典:沖縄から伝えたい。米軍基地の話。Q&A Q6沖縄の軍用地の特徴を教えてください。

軍用地の相続争いはどういうもの? 時価評価と相続税評価の乖離

沖縄県の米軍基地の固定化を受けて、嘉手納基地など一部の基地は返還の見通しが立たないことや、県の経済状況を受けて、その地料(地代)が上昇傾向にあることから、遺産分割の際にもしばしば争いの対象となります。

軍用地の相続で特に問題となるのは、誰が承継するかという問題だけではなく、多くは、その評価額の争いになります。「軍用地が相続税対策になる」という謳い文句がありますが、これは軍用地の評価を時価(収益ベース)で行った場合、年間賃料の40倍~50倍という極めて高額なものとなるのに対して、相続税評価は固定資産評価額に「財産評価基準書」が定める所定の倍率(公用地用の評価倍率)を乗じて算出されますが、この相続税評価額が時価よりも著しく安いため、節税効果が認められるのです。

※参考:沖縄県財産評価基準書

しかしながら、相続(遺産分割)における遺産の評価は「時価評価」であり、「相続税評価」ではありません。遺産分割をする際には、この点に注意して計算を行わないと、自分の計算では想定していた金額と全く異なる相続分しか得られないということになりかねません。

いつの時点で評価するのか、という問題

また、軍用地の生前贈与を受けていた場合、生前贈与された財産の評価時点は、「相続開始時点」です。何十年も前の軍用地だから金額が安いと考えていたら、直近の高騰した金額を基準として計算をすると、遺留分侵害額(減殺)請求を受ける状態だったということも十分あり得ます。

これに対して、生前贈与以外の遺産は「遺産分割時点」で評価を行います。この様に、遺産であるか生前贈与であるかによって、その評価を行うべき「時点」にズレが生じることになります。相続開始後すぐに遺産分割を行うような場合であれば、あまり問題は大きくありませんが、相続開始からある程度時間が経ってから分割を行う場合、思わぬ評価になっている可能性があります。

相続開始後の賃料の問題

また、軍用地の相続では、生前及び死後に入金された軍用地料の帰属の問題があります。一般に、相続開始後に相続財産(遺産)から発生した賃料の様に、基本となる財産から派生する利益や便益のことを「果実」といいますが、相続開始後に発生した果実の帰属をどのように考えるかが、ここでの問題です。

かつては、遺産分割の効力は遡及する(死亡時にさかのぼって効力が発生する)という民法の条文から、相続開始後に発生した果実(軍用地料)も遺産分割の結果として財産を取得した人に帰属するという考え方もありました。

しかしながら、現在は、判例によって、相続開始後の果実(軍用地料)は遺産ではなく法定相続人が相続分に応じて取得するという処理が定着しています。

軍用地は高額なことが多く、計算を間違えると全く違った結果になってしまう

この様に、軍用地の評価においては、その遺産としての評価方法、生前贈与としての評価方法、相続発生後の地代の処理などを正確に理解していなければ、相続分(具体的相続分)や遺留分の計算が出来ません。

しかも、一般に、軍用地は高額であることから、財産評価を適切に行わなければ、法律上いくら請求ができるのか、あるいは、自分にはどの程度のリスクがあるのか判別することが難しいため、早い段階での弁護士の関与が重要です。

沖縄の相続の特徴② 長男承継の伝統

長男承継は裁判所でも認められますか?

沖縄県では、現在もなお、「長男承継」の文化が根強く残っております。

そして、こうした風習に基づいて長子単独承継を希望する相続人と法律に従った分配を求める相続人との間において、紛争となるケースをよく見かけます。

もっとも、法律論としては、死者を慰め、風習を承継していく祭祀承継者と、遺産の財産的帰属とは別の問題です。また、日本国憲法のもとでは男女平等ですから、長男承継というルール自体が、簡単には受け入れられないものとならざるを得ません。

したがって、祭祀承継者と財産の承継者を結びつけ、長男がすべての財産を承継することを希望しても、裁判所では認められません

長男承継をめぐる相続人の争い

祭祀承継者と財産の承継を一致させるにはどうしたらいい?

上述のとおり、裁判所に行くほどモメてしまった時点で、長男側が譲歩を余儀なくされるのは見えているのです。

この手のケースでよく見られるのが、長男側が、なかなか民法的な相続ルールを受け入れられず、「自分が継ぐのが当然」という、強い態度にでてしまい、その結果として感情的なトラブルに発展し、他の相続人側が「だったらもう法律通りに分配してほしい」として、調停などに持ち込むケースです。

現在の相続のルールでは、相続人の理解が得られなければ、誰かが「総取り」することはあり得ません。したがって、トートーメの承継と合わせて財産の承継をも主張する場合には、その前段階において、風習を継いでいくことの意義やトートーメとともに財産が引き継がれてきた経緯を説明・説得し、他の相続人の「信頼」を勝ち取らねばならないのです。

強硬にトートーメの承継=財産承継と主張する相続人がいる場合は?

逆に、祭祀承継と財産の承継を強く主張する相続人がおり、それに納得できない場合には、弁護士を通じて法律に則った分配金額を計算させ、早めに調停にもっていくことが、最終的な解決という意味では近道になります。

相続は、性質上多人数での話し合いになりやすく、日程調整に時間もかかります。また、その意見も様々です。そのため、法的な整理というガイドラインなしに、当事者だけで解決しようとすると、あっという間に1年~2年経ってしまいます。

後から見れば、「当事者で話し合っていた時間がもったいなかった。」という感想もよく聞くところですので、すんなり話が決まらない様であれば、早めに弁護士にご相談ください。

相続分譲渡や相続放棄を約束させられることもある

他方、長男以外の相続人が、遺産は長男が継ぐものと思い込んでおり、相続開始直後に長男が連れてきた弁護士や司法書士に、なんだかわからないままに相続分の放棄や相続分の譲渡を約束する書面に署名・押印させられ、その後に、自分にも取り分があったことを知って、慌てるというケースもあります。

この場合は、合意の錯誤無効や詐欺取消などの可能性がないわけではありませんが、ひとたび書面の形にしてしまうと、その効力は非常に強力です。

無効だといえる場合もありますが、手間と費用はどうしてもかかってきてしまいます。

沖縄の相続の特徴③ 祭祀(トートーメ)の承継

沖縄における伝統的な風習は、長子承継ですが、長子承継(チャッチウシクミ)だけではなく、様々なサブルールがあります。

例えば、一つの位牌に兄妹を一緒に祀ってはならない「チョーデーカサバイ」(兄弟重なり)や、長男が死没している場合においては、次男の次男系統が長男の代わりに養子に入るという慣習、これらの例外的・一時的取り扱いとしての「預かり位牌」などです。

この様な、他県にはない特殊な承継のルールは、沖縄県民にとっては、ある程度「前提知識」の様な位置づけになっていることが多く、その位置づけを弁護士が理解していないと、相談を受けた際にもそのニュアンスが受け止めにくく、効果的な主張ができないことがあります(事実、初めて沖縄の祭祀承継者指定の審判で代理人をした際には、沖縄のルールの複雑さに面食らい、本を購入して勉強をしました。)。

ただし、注意を要するのは、この様な祭祀承継ルールは、そもそも男系長子単独承継が基本となっていることから、なかなか裁判所において受け入れられるものではないということです。

祭祀承継者の指定は、遺言などで被相続人が指定し、被相続人の指定がなければ慣習に従い、慣習がなければ家庭裁判所がそれまでの実績、意欲その他諸般の事情を考慮して指定するという条文にはなっていますが、現実問題としては、沖縄の承継ルールには憲法との関係でも問題があり、同性間での争いではともかく、相手方が女性の場合にはまず認められない、それどころか、むしろ逆効果になりかねないという問題があります。

したがって、伝統に従ってトートーメが承継されていくことを期待するのであれば、被相続人は、必ず、遺言書で承継人を指定しておくことが重要です。

沖縄の相続の特徴④ 葬儀・香典・周忌・週忌

また、相続人の死後の周忌の取り扱いについても、沖縄県はかなり特殊です。伝統に忠実な家柄では、四九日まで七日ごとに焼香を行うという風習(ナンカスーコー)があり、葬儀自体の香典は低額である一方、何度も香典を渡すことがあります。

こうした周忌(週忌)は、回数が多く都度香典を持ってきたり、お供え物が供えられたりすることから、これを主催する相続人にとっては、かなり負担になるケースもあります。

もっとも、葬儀費用をはじめ、こうした周忌(週忌)に要する費用は、基本的には主催者(喪主)負担であり、他方で、香典なども同様に主催者(喪主)が取得することになります。よく、遺産分割の局面において、葬儀費用が香典では賄えなかったからその分を他の相続人に請求したとか、逆に、香典収入が多かったはずだからその分を返還するよう求めたいという相談を受けることがあります。

しかしながら、基本的には、相続人間で合意できなければ、費用を他の相続人に払ってもらったり、逆に香典の分配を請求することはできません。葬儀費用が大きくかかる可能性があったり、香典収入が多額になることが予想される場合には、事前に相続人間でよく話し合わないとトラブルの元になりかねません。

沖縄の相続の特徴⑤ 墓地

沖縄県の相続では、墓地も問題になりやすいです。内地では、墓地といえば、基本的には寺社所有地内に永代使用権(永代供養権)を購入して、墓石を立てるという方式が一般的ですが、沖縄県の場合には、そもそも墓地として墓所の底地を自己所有したり、かなり広大な面積の土地が墓地として取り扱われていることがあります。また、墓石も亀甲墓であり、新規購入する場合には数百万円以上の金額がかかります。

まず、法律上墓地と認められる範囲としては、祭祀の承継にとって必要な範囲に限られます。そのため、不必要に墓地が広い場合、墓が存在している土地及び墓に入るために必要な土地などを除いては、祭祀財産とは認められません。祭祀財産として認められない墓地は、ほかの一般財産と同じ扱いですので、遺産分割協議によって取得者を決めることになり、売却も取得者が自由に行うことができるのです。

また、墓石については、いくら親族全体のためのものという説明をしたとしても、その負担は原則として、祭祀承継者の負担です。明確な合意もないのに、あとで他の相続人にも負担してもらえると見切り発車をして高額な墓を購入したりすることがないように注意が必要です。

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