弁護士業務と弁護士会
「弁護士会」という組織は、会が主催する無料法律相談やときおりニュースで目にする会長声明を通して多くの方が聞いたことがあると思います。
この弁護士会が日頃の弁護士業務とどの様に関わるのか、会費が高いと言われるけれどどれくらいなのか、その使い道は何なのかなど、について解説したいと思います。
弁護士会の概要
弁護士会の会員・目的
弁護士会は、弁護士法31条に基づいて定められた、弁護士を会員とする法人です。弁護士会は強制加入団体であり、弁護士登録をする場合には必ず、弁護士会に所属しないとなりません。
弁護士法 第31条(目的及び法人格)弁護士会は、弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士及び弁護士法人の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。
都道府県単位会
弁護士連合会(高裁ブロック弁護士会)
弁護士法 第44条(弁護士会連合会)同じ高等裁判所の管轄区域内の弁護士会は、共同して特定の事項を行うため、規約を定め、日本弁護士連合会の承認を受けて、弁護士会連合会を設けることができる。
日本弁護士連合会
都道府県単位の弁護士会全体で組織する親組織が、日本弁護士連合会です。名称がややこしいですが、日本弁護士連合会と弁護士連合会(高裁ブロック弁護士会)は全く別ものです。
実態はともかく弁護士連合会(高裁ブロック弁護士会)への加入は任意ですが、日本弁護士連合会は、日本国のすべての弁護士会(都道府県単位会)で組織しなければならない強制加入団体です。
会長声明は個々の弁護士の意見を反映しているの?
会長声明のプロセス
よく、ニュースでは弁護士会の「会長声明」などとして、意見表明が行われます。こうした声明がどの様なプロセスを経て発出されるのか、個々の弁護士の意見が反映されているのか、気になる方も多いと思います。
この会長声明の多くはボトムアップというよりはトップダウン型のプロセスで形成されます。どういうことかといいますと、弁護士会も組織である以上、その「会長」をトップに数名から十数名程度の執行部があり、この執行部において声明を出すかどうか、どういった声明を出すかを検討します。
単位会の執行部がどうやって声明のネタを探してくるかというと、日本弁護士連合会・弁護士連合会(高裁ブロック弁護士会)・単位会の部会(委員会)から、「こんな声明を出したらいいんじゃないか」という意見をもらうことが多いと思われます。
こうしてできた素案を会員にメーリングリストなどで回覧・意見募集を行い修正を加えて、会長声明として発出するということになります。ただ、そもそも「その声明を出すかどうか」というレベルでは、個々の会員が関わるということはほぼありません。そのため、日頃、声明の担当している委員会に携わっていない大多数の弁護士からすると、「声明を出します」。「修正があれば教えてください」。と半ば唐突な形で意見照会が来ますので、政治色の強い声明では困惑する場面もあります。
個々の弁護士の意見は必ずしも反映されていない
(少なくとも私は)弁護士会という組織は、自己の選択というより強制的に加入していたという印象が強く、何となくその活動にも受け身になりがちです。
もちろん、弁護士登録をする時点で弁護士会に加入しないといけないのは分かっていたという意味では、「自分の選択」ではありますが、「個々の事件解決」こそが弁護士の最も重要な存在意義であり、弁護士会として活発な活動はあまり望んでいないという会員もいると思います。こうした受け身の会員に対して、弁護士会の意義を積極的に認識し、声明の発出などにも熱心に取り組む弁護士に分かれがちです。
あとで書くように高い会費を払っているので、もったいないではありますし、弁護士としての矜持を持っているのなら、意見を積極的に発言し、それでもダメなら別団体を作る活動をすればいいと言われればその通りなのですが、実状としては、「そんな時間があれば目の前の事件を進めたい」というふうになってしまっています。
「会長声明を発出するかどうか」というレベルでも意見を出すことが出来れば理想ですが、それでは時間・手間がかかりすぎる、仮に、そういったプロセスを経ても、そもそも興味が薄い会員からは大した意見も出てこないというのも容易に想像できます。
強制加入・会員の二極化・意見集約の難しさという要素が重なった結果、残念ながら多くの会員の考え方を反映したものとは言えないのが現状ではないかと思います。
無料相談にはどんな弁護士が来るの?
都道府県単位の弁護士会では、無料相談を開催しており、もちろん沖縄弁護士会でも行っています。沖縄弁護士会の場合、2020年6月現在、以下の通りです。
日にち | 時間 | |
那覇 | 月曜から金曜
※夜間相談:水曜 ※休日相談:第2・第4日曜 |
午前9:30~11:30、午後1:30~3:30
※夜間相談:午後6:00~8:00 ※休日相談:午前10:00~12:00 |
沖縄市 | 月曜・水曜・金曜 | 月曜・水曜:午後1:00~4:00
金曜:午前10:00~12:00 |
名護市 | 月曜・水曜 | 午後1:00~4:00 |
この無料法律相談(一定の資力以上の方は有料)は、登録制(登録料はありません)で、無料相談の担当者を希望する人の中で名簿を作り、名簿にしたがって担当します。
年齢制限はありますが、実務経験要件などはありませんので、若干の研修を受ければ登録1年目でも担当者になることは可能です。登録している弁護士は幅広くおりますが、傾向としては若手~中堅が多いと思います。
私も弁護士会の法律相談に登録している手前、大きな声では言いにくいのですが、法律問題は、「どうやって捉えるか」でかなり違ってくることや、弁護士会の相談では、時間制限が厳しいこともあり、基本的には、人からの紹介やホームページをよく読んで、相談した方がいいのではないかと思います。
委員会の業務はどんなもの?
弁護士会には、「委員会」といって、弁護士会を通じて、さまざまな活動を行うグループがあります。
この委員会には、弁護士法で設置が定められている「独立委員会」、弁護士会のルールで全国の弁護士会に共通して設置が定められている「常置委員会」と、各都道府県の単位会が特別に定めた「特別委員会」があります。
沖縄弁護士会では、各弁護士が3~5個程度の委員会に加入し、月に1回~3カ月に1回程度会議をして、どの様な活動をするのかを決めていきます。もっとも、この委員会活動も濃淡があり、活発な委員会とそうではない委員会、負担の大きい委員会と負担の少ない委員会とがあります。
常置委員会は、地味ではありますが、「ザ・弁護士の活動」といった内容ですが、特別委員会はいわば「業界団体」に近い様な性質があります。推測ですが、もともとは常置委員会の様な地味な活動では、法的救済を求めている市民には届かない、不十分であるというところから始まったのだと思いますが、最近は、特別委員会が営業活動の一環になっている側面があったり、新しい委員会を作るプロセスが不明確であることなどから、「増やし過ぎ」という意見もよく聞かれます。
1.独立委員会
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2.常置委員会
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3.特別委員会
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弁護士会HP(http://www.okiben.org/modules/public/index.php?content_id=27)
弁護士会費はいくら?使い道は?
弁護士会は、都道府県単位会、高裁ブロック弁護士会、日本弁護士連合会に分かれており、それぞれに会費が設定されています。
年度によって異なりますが、。沖縄弁護士会の会費は、月額5万円程度であり、これに高裁ブロック弁護士会、日本弁護士連合会の会費などを合わせると、月額6~7万円となり、士業者では異例の高額さになります(年額ではありません「月額」です。なお、年数による軽減や会館費など時限的な会費もあります。)。
この異様に高い会費にはいくつか理由があります。
- 弁護士自治として監督行政官庁がないため自分たちで運営費を賄う必要があること
- 国選弁護人の報酬の一部が会費から賄われていること
- 法テラスの援助事業の一部が会費から賄われていること
弁護士自治と会費
弁護士会は、他の団体と違い、公的資金を入れずに運営を行っております。したがって、予算を国に握られていないことから高い独立性を有している一方で、懲戒処分を自前で審査したり、運営経費を自前で賄わなければなりません。
これは結局、依頼者の弁護士費用に跳ね返ってくる話しになるので、一概に何がいいとは言えませんが、一つだけ明らかなことは、弁護士を増員するという国の政策と弁護士自治は完全にミスマッチであるということです。
弁護士の数が増えれば増えるほど、その活動領域も拡大させて法的需要も喚起していかなければなりません。需要を喚起するためには、多額の資金が必要になりますが、自治組織では限界があります。そのため、弁護士の供給過剰が発生し、「食えない弁護士」が大量生産されていきます。
弁護士会としては、「弁護士減員」を度々会長声明において発出しており、司法試験合格者の更なる増加は抑制されておりますが、現状のペースでの増員が続けば、その結末は「弁護士自治の崩壊」か、弁護士自治を守った結果の「弁護士の貧困」のいずれかしかありません。
それぞれの弁護士が、この問題に対して危機感をもって接してほしいと切に願います。
国選弁護人・法テラスと会費
国選弁護人は、資力のない犯罪被疑者・被告人でも弁護人を選任できるようにする制度であり、法テラスは同じく資力のない人のために弁護士費用を立替払いする組織です。いずれについても、会費と国費両方が注入されています。したがって、一応、会員に対して還流されてはおりますが、国選弁護人の費用は本来的には国が負担すべきものであるように思います。