持続化給付金の支給要件
持続化給付金の基本的な支給要件は以下のとおりです。
- 資本金の額又は出資の総額が10億円未満であること。
- 2019年以前から事業により事業収入(売上)を得ており、今後も事業を継続する意思があること。
- 2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月が存在すること。
また、2019年創業企業の支給要件は、上記3.に代えて以下の要件が必要です。
2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、2019年の月平均の事業収入に比べて50%以上減少した月が存在すること。
更に、2020年1月から3月まで創業企業は、以下の要件が必要となる見込みです。
2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、新型コロナウイルスの感染拡大後の任意のひと月の事業収入が、1~3月までの平均売上高より50%以上減少していること
2019年後半に創業した企業に著しく不利
問題の所在
以上の要件からすると、すべての企業に対して、公平に給付の機会がある様にも見えます。しかしながら、この給付金の要件は、2020年1月から3月の売り上げを一律に排除する点で明らかに問題があります。特に、2019年後半に創業した企業に対して余りにも不公平です。
①多くの企業において、新型コロナウイルスの影響が本格化したのは、2020年3月下旬あるいは4月以降であることから、1~3月までの営業には支障がなかった企業については、3月までの売り上げを考慮すべきです。
②適切な給付を行うには、50%減少の比較対象となる平均売上期間を長く取る分には問題ないはずです。
③2019年創業企業、特に後半に創業した企業では、創業後間もないため売上が立ちにくく、むしろ2020年になってから売り上げが軌道に乗った企業も多いと考えられます。しかも、創業月を「1か月」とカウントするとされており、ほぼ売上が立たない初月も1か月として計算するため、2019年創業の企業にとって非常に不利です。
具体例
例えば、弊社のように2019年10月に創業した企業について考えてみましょう(数値は全く架空のものです)。
10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
売上 | 0円 | 100万円 | 200万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 |
この場合、10月から12月の平均売り上げは、わずか100万円です。したがって、100万円のさらに半分である50万円以下の売上でなければ持続化給付金の対象になりません。これに対して、1月から3月までも対象に含めた場合には、10月から翌年3月までの平均売り上げは、200万円となり、10月から12月までの倍額になるのです。
さらに、12月に開業した企業は、持続化給付金の支給の見込みはほぼありません。もしこれが、翌年に開業であれば、2020年度開業の特例の適用を受けることができたことを考えると、あまりにも不合理です。
12月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
売上 | 0円 | 100万円 | 200万円 | 300万円 |
この様に、2019年下旬に開業した企業では、1月から3月を含めるか含めないかで、非常に大きな差が発生し、ひどい場合には持続化給付金の取りようがないという事態が生じてしまうのです(1~3月を含めれば150万円の1/2=75万円)。
「1月から3月は影響の程度に差がある」論
1月から3月は新型コロナウイルスによる影響には差があり、含めると逆に不合理になる可能性があるという意見はあるかもしれません。
しかしながら、それは、1月から3月(の任意の月数)を含めるかどうかを選択性にすればよい話です。もともと、2019年だけで考えていたはずですので、1月から3月に売り上げが減った企業が支給要件を満たすのは織り込み済みです。
したがって、1月から3月を含めることで救済されるのは、1月から3月に売り上げが増えた企業であり、その様な企業が4月以降50%以上売り上げが減少しているとすれば、「新型コロナウイルスの影響による売り上げ減少のダメージを緩和する。」という、本来の趣旨に適うものです。
なお、これは、2018年以前創業企業にも同じことが言えます。今回のコロナ禍によるダメージ軽減を考えたとき、2020年1月から3月に売り上げが増えている企業の増収分を排除する理由がまったくないのです。
3月まで売上が増えていた企業が、4月以降に50%も売上減少している場合、その売り上げ減少は、(2019年の平均売上との比較より)一層、コロナ禍との因果関係が明確であり、むしろ救済せねばなりません。
「どこかで線引きをしないといけない」論
給付の実現のためには、「どこかで線引きが必要」との主張を耳にする機会があります。50%減という数値要件については、何の根拠があるのか不明ではあるものの、コロナウイルスの影響がなくても発生した可能性がある売上減少を排除するという意味では、分からなくはありません。
この様に、売り上げ減少の程度を考えるにあたって、最適解がどこにあるのかが不明であることから、キリのいい数値を採用するというのは、確かに「どこかで線引き」論を適用すべき場面であると思います。
しかしながら、2020年1月から3月に売り上げが立っている企業の売り上げを計算に含めないというのは、ただただ、本来救済すべき対象を減らす以外の効果は何も存在しません。
迅速な給付のために要件をシンプルにしたいという思惑はあり得るかもしれませんが、1月から3月を選択的に含めるかどうかで、どれほどの影響があるのでしょうか。含めないことの害を上回る様な大幅な遅延は想定されません。
何より、この要件に引きずられて、今後の家賃補償も同様の要件設定になりそうであること、また、都道府県・市区町村レベルでの救済についても同様の要件設定が想定されます。そうすると、現実にコロナによる影響を大きく受けた事業者であるにもかかわらず、その中で、救済を受けられる者と救済を受けられない者が二分されてしまいます。
その結果、等しくコロナによる大打撃を受けた事業者間での競争力に圧倒的な力の差を生じさせてしまうことになりますが、それは絶対にあってはなりません。企業の体力勝負を避けるための救済であるはずなのに、逆に企業の体力差を大きくしてしまうのです。
したがって、政府は速やかに、2019年平均・50%減という基準を見直すべきです。第1段階における当面の救済として設定した要件がこのまま既成事実化・固定化してしまうことは避けねばなりません。
中小企業庁に対する意見・要望
以上のとおり、持続化給付金の支給要件については、2020年1月から3月を選択的に含めるのが合理的だと考えております。特別影響が大きいのは2019年下半期創業という比較的限られた範囲だからといって、税金を投入して、明らかな不公平を生じさせることは不当というほかありません。
中小企業庁ではお問合せメールフォームがあり、意見・要望を受け付けております。支給要件について、意見・要望を述べる場合には、こちらに投稿することをお勧めいたします。
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/honsyo03/meti_toiawase