経営者保証に関するガイドラインとは?
概要
経営者保証に関するガイドラインとは、「担保・保障に過度に依存しない融資の促進」という金融庁の方針を受けて、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会(全銀協)を事務局とし、有識者等の意見を踏まえて、金融機関による自主的かつ自律的な準則として定められたガイドラインです。
ガイドラインに準拠した対応を取り入れることで、経営者保証の解消を促すことが出来ます。
- 経営者保証の解除・経営者保証に代わる融資手段の活用
- 事業承継時の新旧経営者の保証解除・経営者保証に代わる融資手段の活用
- 債務整理や事業再生手続きにおけるリスケジュール、経営者保証の免除・生計費の確保
法的効力
あくまで自主ルールであるため、直接的な法的拘束力があるわけではありませんが、金融庁の後押しを受けて全銀協が関与して作成したルールであり、金融庁は半年ごとにガイドラインの活用実績について報告書を取りまとめるなど同ガイドラインに沿った運用の浸透を求めている以上、金融機関としてこれを無視した運用は出来ません。
そのため、金融実務においては、非常に重要な役割を担っております。
事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則
ガイドラインの特則を定めた経緯
既に、ガイドラインにおいて、事業承継時の経営者保証の解消を促す取り組みは盛り込まれておりましたが、それでもなお、経営者保証の存在が事業承継における阻害要因となっているという問題意識から、2019年12月に、ガイドラインの「特則」として、より具体的に、事業承継時におけるルールを定めたものが「事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則」です。
特則のポイント
保証の二重徴求の原則禁止
特則においては、事業承継時において、新旧経営者双方から経営者保証を徴求する「二重徴求」を原則禁止し、以下のような事情がある場合にだけ徴求できるとしております。
・法人から前経営者に対する多額の債権があり、後継者が前経営者の保証解除をしないよう求めている場合
・既に金融支援を受けており、かつ、前経営者から後継者への多額の資産等の移転が行われているなどの場合
後継者との保証契約 の抑制
特則では、後継者に対する保証契約について、金融機関に対して、より一層慎重な対応を求めるとともに、以下のような事情の考慮を求めています。
・債務者が作成する事業承継計画や事業計画の内容、成長可能性の考慮
・報告義務等を条件とする停止条件付保証契約等の代替的な融資手法の活用
・ 外部専門家や公的支援機関による検証や支援を受け、ガイドラインの要件充足に向けて改善に取り組んでいる主たる債務者については、検証結果や改善計画の内容と実現見通しを考慮すること
・「経営者保証コーディネーター」による確認を受けた中小企業については、その結果を十分に踏まえること
要点としては、経営者保証をにすぐに飛びつくのではなく、具体的な計画を練ったり、報告義務や外部からの検証を受け入れた経営者に対する保証契約を抑制するよう求めています。
また、経営者保証が必要と考えられる場合でも、正常運転資金や保全が効いた設備投資資金を除いた資金に限定した保証金額の設定、解除条件付保証契約(一定の事由を達成した場合保証が効力を失う契約)等の代替的な融資手法、保証人を徴求しない信用保証制度や政府系金融機関の活用に柔軟に対応することを求めています。
前経営者との保証契約の解消
特則では、前経営者は、事業譲渡後は経営者からは一定の距離を置いた存在であり、経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立が求められていることを踏まえて、見直しを検討することが求められるとしています。
・また、保証を継続する場合には、株式保有状況(議決権の過半数を保有しているか等)、代表権の有無、実質的な経営権・支配権の有無、既存債権の保全状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案した慎重な対応を求めるとともに、取締役等の役員ではなく、議決権の過半数を有する株主等でもない前経営者に対する保証については特に注意を促しています。
・ 前経営者の経営関与の状況等、個別の背景等を考慮し、一定期間ごと又はその背景等に応じた必要なタイミングで、保証契約の見直しを行うことが求められる
このように、解消を促す要件が比較的緩やかになっていることに加えて、解消を検討するタイミングを事業承継時一回限りではなく、複数回設けることで、前経営者との保証契約の解消を促しています。
まとめ
「経営者保証に関するガイドライン」では、一貫して、「会社の規律面を整備することで、経営者保証に頼らない融資慣行を確立する」という考え方に基づいて作成されております。
このガイドラインに沿った対応を行うことで、事業承継時のみならず、事業再生・債務整理の局面などにおいても、効果的な金融支援を受けることが可能となります。
事業計画の立案、債務整理・事業再生の局面においては、「時間」が最も重要です。ガイドラインの要点を理解し、各種の手続き(ガイドラインに基づく任意整理スキーム等を含む)を理解している弁護士に、早い段階で関与させることが極めて重要です。
経営者保証、事業承継、事業再生について対応を検討されている経営者様は、何卒、ご相談ください。