【会社法】令和元年会社法改正の概要

概要

平成26年の会社法改正(平成27年5月施行)附則に基づき以下を要点とする改正が行われました。

  1. 株主総会関係資料の電子化・濫用的株主対策
  2. 取締役の報酬に関する開示、取締役の賠償責任のリスクヘッジ・社外取締役に関する整備
  3. 株式交付制度の創設
  4. 社債補助者制度の創設
  5. その他(支店所在地登記、取締役の欠格事由、議決権行使書面の閲覧謄写拒絶事由の明文化など)

会社法の一部を改正する法律の概要(法務省民事局)

なお、原則として公布日である2019年12月11日から1年6月以内に施行予定ですが、一部の改正については、公布日から3年6か月以内に施行予定となっております。

株主総会に関する規律の見直し

株主総会資料の電子提供に関する改正(公布日2019年12月11日から3年6か月以内に施行)

概要

まず、改正前の株主総会資料の電子化の状況を確認いたします

  1. 招集通知の電子化
  2. ウェブ開示によるみなし提供制度(ウェブサイトに掲載することで招集通知の記載事項の一部を省略)
  3. 電子投票制度

今回の改正は、このうち1.「招集通知の電子化」に関する改正です。これまで、招集通知の電子化は「株主による個別の承諾」が必要でした。

しかしながら、令和元年改正により、株主総会の日の3週間前までに、ウェブサイトに必要な事項を記載して、「ウェブサイトのURL等を通知」すれば、招集通知を送付したものと認められることとなります。

紙の招集通知の提供を省略できることは総会運営のコスト・労力面での省略になりますが、他方で、書面の交付要求があった場合には2週間前までに提供する必要があり、注意が必要です。

書面の交付要求が遅延した場合

仮に、書面交付要求があったのにこれを事務処理上のミスで遅れてしまった場合、これは総会招集通知の不交付は株主総会の瑕疵ですが(会社法831条1項)、電子提供を行った上での小規模な事務手続きのミスであれば、軽微なものとして株主総会決議の取消にまでは至らない可能性が高い(会社法831条2項)と考えておりますので、積極的な導入が期待されます。

“会社法831条2項(抜粋)”

「株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。」

濫用的株主提案(議案提案)への対策

株主会社の株主は、少数株主権として「議題提案権」(議決権の1%又は300個の株式を6か月間保有)と、単独株主権として「議案提案権」を有しております。

少数株主権とは、法定された要件を満たす株式数を持っている株主だけが行使できる権利であり、単独株主権とは議決権を有する株主であれば誰でも行使できる権利です。

また、「議題」とは、株主総会の議決の対象となる「大項目」であり、例えば、「取締役〇名選任の件」、「剰余金の処分の件」などです。これに対して、「議案」とは、議題の具体的な内容であり、「✖氏は取締役にふさわしくないから〇氏を取締役にしたい」とか、「株主配当が少ないから、増配して欲しい」などとして、議題は同じであっても、会社提案とは異なる内容の提案を意味します。

したがって、議題の提案は要件が厳しいですが、議案の提案は単元株式を保有していれば誰でも可能ですので、これを利用して、多数の株主提案を一人で行うという事例が発生していました。多数の株主提案が行われてしまうと、その処理や質疑の打ち切りなどは必要であり、株主総会の瑕疵につながる可能性があります。

この様な、問題状況を受けて、今回の改正では1人あたりの株主提案数を「10」とすることとされました。

10件というと多いような印象もありますが、例えば、不祥事を起こした企業の取締役が12人おり、その総入れ替えを主張する場合には、それだけで、一人当たりの提案数の上限を超えてしまうことになりますので、単なる個数だけでなく、議題と関連付けた規制が、好ましいのではないかと考えます。

取締役の報酬に関する情報開示など

報酬に関する規律

個人別の役員報酬に関する決定方針の開示

役員報酬決定の透明性を確保するため、監査役会設置会社(公開・大会社)及び監査等委員会設置会社で、個人別の報酬額を開示しない場合には、その「方針」を定め「概要」を開示することとなりました。

これはコーポレートガバナンス・コード(以下、「GCコード」)の原則3-1、補充原則3-1①と平仄を合せた改正と言えます。

【原則3-1.情報開示の充実】

上場会社は、(略)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。
(ⅲ)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続

【補充原則3-1①】

上記の情報の開示(法令に基づく開示を含む)に当たって、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべきである。

役員報酬としてのストック・オプション付与手続きの整備

取締役に対する業績向上のインセンティブを与える仕組みとして、役員報酬の一部を株式・新株予約権で付与する「ストック・オプション」が採用されることがあります。

もっとも、ストック・オプションも株式等の発行ですので、従来はこれに対する払い込み(出資の履行)が必要でした。しかし、出資の払い込みと言っても、会社が役員報酬として定めた報酬額の一部を出資にまわすだけであり、あまり実質的な意味はありませんでした。

そのため、本改正では、上場会社における役員報酬としてストック・オプションを利用する場合は、出資の払い込みを不要として、これに伴い株主総会における議決事項も変更となりました。

事業報告での開示

上記改正を受けて、取締役会において定められた報酬の決定方針等やストック・オプションとして付与する株式等に関する事項が事業報告において開示するものとされました。

会社補償/役員等賠償責任保険契約に関する整備

会社からの役員に対する損害賠償

現行法では、「役員等の責任追及の訴え」として、会社役員に対して会社に対して損害賠償請求するよう求め、それが実行されない場合には株主が代表として訴訟提起することが出来ます。また、第三者からも同様に責任を追及することが出来ます。

もっとも、ひとたび、責任を追及された場合には、その賠償額が多額に及ぶ可能性があり、役員就任に対する負のインセンティブや”攻め”た経営に対する委縮効果を生みかねません。

しかしながら、こうした賠償責任を会社が補償する場合、会社と取締役との間で利害相反が生じます。そのため、一定限度では取締役の賠償責任軽減の必要性があることを認めつつも、その手続きや上限を定める改正が行われました。

基本的な枠組みは以下のとおりです。

①「株主総会(取締役会設置会社では取締役会)」の決議が必要である(なお、利益相反取引にかかる会社法356条1項及び365条2項並びに民法108条の適用は排除)

②次の損害は補償の対象外とする

  • 悪意・重過失による損害
  • 会社が損害を補填した場合にはその役員が会社に対して任務懈怠となる場合の損害
  • 過大な費用(通常要する費用を上回る費用)

③補償を実行した取締役及び補償を受けた取締役は、取締役会において重要な事実を報告しなければならない。

D&O保険に関する整備

D&O保険(役員責任賠償保険)は、会社役員が業務に関連して損害賠償責任を負う場合に備えて、当該役員を被保険者として会社が保険をかけるものです。

D&O保険は、既に、一般的に広く活用されておりましたが、取締役のための保険にかかる保険料を会社が支払うことは、会社と取締役との間に利益相反性があることから、この様な会社からの支出が許容されるか解釈上の不透明感がありました。

そのため、本改正により明文の規定で、法が認める範囲での保険契約及び保険料の支払については「利益相反取引に関する規定の適用が排除」されることが明確になりました。

また、手続的には、補償契約と同様に、「株主総会(取締役会設置会社では取締役会)」の決議が必要であるとされております。

社外取締役にかかる整備

社外取締役への業務執行の委託

社外取締役として認められるには、本人及び一定の人間関係がある者が、当該企業及びその関連企業の業務執行を行っていないことが必要です。

しかしながら、会社の業務執行には会社と取締役との利益相反状況がある場合や、取締役の業務執行に関する不祥事調査などにおいては、むしろ社外取締役が積極的に関与する必要があります。

この様な状況下においてまでも、社外取締役が業務執行することが許されないとすれば、社外取締役の活動領域は極めて限定的になってしまいます。そこで、本改正では、社外取締役が、「独立した立場において」、「取締役の決定(取締役会設置会社の場合の取締役会の決議)」に基づいて、業務執行することが出来るとされました。なお、「独立した立場」というのは、「代表取締役や担当取締役の指揮・命令に基づかない」ということを意味します。

この様なルールは、社外取締役の位置づけからすれば当然の帰結と言えそうですが、明文化されたことで、会社の不祥事調査などの局面においては、社外取締役が自ら指揮を執り、あるいは、外部調査に関与するなどの形で、そのプレゼンスが高まると言えます。

社外取締役の設置義務の強化

監査役会設置会社(公開・大会社)である上場会社は、社外取締役を置かなければならないこととされました。

従来は、設置しないことを認めつつも、その場合には「設置しない理由の説明」を要求する、いわゆるComply or Explain方式であったところ、恐らく、それでは海外投資家へのアピールが不十分との認識があったものと推測されますが、今回の改正では「義務」とされました。

株式交付制度の創設

改正前会社法では、自社株式を対価として他社を子会社とする方法として「株式交換」の制度のみがありました。しかし、株式交換は、対象会社の株式「全部を取得」して、対象会社株主に自社株式を交付するものであり、要は、「完全子会社」とする場合しか想定しておりません。

そのため、完全子会社以外の子会社化のための手続きとして「株式交付制度」が創設されました。手続きの概要は以下のとおりです。

  1. 株式交付親会社において株式交付計画(効力発生日、譲渡期限、対価、取得株式の下限等を定める。)を作成・株主総会特別決議による承認する
  2. 株式交付計画に定められた譲渡申込期限までに相手企業(株式交付子会社=株式交付の結果として子会社となる予定の会社)株主が譲渡を申し込む
  3. 申込人への割り当て・通知を行う(ただし、申込数が計画で定めた下限に満たない場合には、株式を交付しないことを通知する)。

その他、書面の備置、差止請求・株式買取請求、債権者異義手続きなどが必要であることは、他の組織再編行為同様です。

社債管理補助者制度の創設

会社法では、いわゆる1億円以上の「少人数私募債」の場合(社債総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50を下回る場合=最大でも50人未満の投資対象者に対する社債発行)には、社債管理者の設置義務から免れます(なお、1億円「以上」が対象であるのは、小口過ぎる社債発行は、管理に不安があるためです。)。

この様な小規模な社債を社債管理者が行うのは負担が大きい一方で、自社で社債管理を行うのも大変ですので、今回の改正では、その中間的な制度として、自社管理の社債であっても社債管理補助者として銀行・信託会社・弁護士等に補助をさせることが出来るようになりました。

小規模事業者の新たな資金調達の方式として活用が期待されます。

その他の改正

議決権行使書面の閲覧謄写請求の拒絶事由明文化

これまで規定が存在しなかった議決権行使書面の閲覧謄写について、以下の拒絶事由が明文化されました。
 1 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
 2 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
 3 請求者が閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
 4 請求者が、過去二年以内において、3の行為をしたことがあるとき。
これは、株主名簿の閲覧と同様の規制です。背景事情としては、議決権行使書面の閲覧謄写には規制がなかったことから、議決権行使書面の記載から株主を割り出して委任状勧誘を行うなど、実質的には株主名簿の代用として利用されるケースが存在したことや、、特定の議案の賛成・反対情報から政治的な団体などへの加入を勧誘するなどの問題があったようです。
なお、委任状勧誘のための株主名簿閲覧は、それが正当な株主としての議案提案に関するものであれば、裁判例(仮処分の決定例含む。)においても認められておりますので、手続きを踏めば開示を受けることは可能です。

支店所在地登記の廃止(2019年12月11日から3年6か月以内に施行)

これまでは支店を登記しようとする場合には、本店所在地における登記のほかに、支店所在地を管轄する法務局へ支店登記を申請しておりましたが、今回の改正によって、支店所在地での登記は廃止されます。登記実務的には影響の大きな改正です。
支店登記自体が不要となるわけではありません。

取締役の欠格事由から被後見人・被保佐人削除

取締役の欠格事由として定められていた、被後見人であること及び被保佐人であることが削除されました。これにより、被後見人及び被保佐人は、後見人または保佐人の同意を得て取締役に就任することが出来るようになりました。

確かに、組織として認めるのであれば、敢えて排除する必要性は低いと言えそうではあります。また、後見をはじめとする行為能力制度は主に財産管理能力が主体であり取締役の資質の観点とは若干異なりますが、会社が外部にもステークホルダーを有し、一定の公共性を持つという社会実体面に照らすと評価が分かれるものと思われます。

また、取締役の欠格事由は監査役等にも準用されていることから、監査役等についても、同様に被保佐・被後見人であることは欠格事由にならないこととなります。

ご不明な点はお問い合わせください

ご相談無料(初回) 098-996-4183