【移転登記】沖縄の伝統的血縁団体「門中」への移転登記(名義変更)請求が認められた事例

門中とは?

沖縄県において、弁護士をやっていると必ず出てくるのが「門中」という存在です。

門中とは、沖縄県の伝統的な血縁者集団です。血縁者集団が組織的に活動するというケースは沖縄県に限ったものではありませんが、沖縄県の場合には、本土に比べて遥かにこうした血縁制度が社会に根強く残っている点に特徴があります。

したがって、個人や家族単位での墓とは別途、門中墓があったり、先祖代々の門中の土地など、門中固有の財産を持っているケースが多くあります。こうした団体は、父系承継を前提にしていることも多く、日本国憲法の男女平等の原則の下で崩れつつある一方で、中には組織化を進めてより構成員各人とは別途の団体として整備を進めているものもあります。

今回、問題となったのは、いわば門中の本家にあたる系統が相続を機に門中から離脱し、これに伴って、それまで門中の代表者として登記名義人になっていた人物から門中の新たな代表者に登記名義を移すという事案です。

「権利能力なき社団」の意義

門中の様な、法人の設立手続きはとっていないが、実質的には構成員個人とは独立性を保った団体のことを、法学においては「権利能力なき社団」といい、「権利能力なき社団」であると認められる場合には、個人とは別途の存在と認めらえるとされています。(「権利能力なき」というのは、制定法上認められているわけではないというような意味です。)。

権利能力なき社団は、社団(権利義務の主体としての実体)はあるものの、法人の設立手続きを経ていない点において、法人とはいくつかの局面で異なる取り扱いがあります。そのうちの一つが、登記名義です。すなわち、門中の財産であっても法人ではないので、原則として(門中全員からの個別委任によらない限り)門中名義の登記名義にはできないのです(最判平成26年2月27日判決 民集68巻2号192頁)。そこで、どうするかというと、門中の代表者の名義をいわば借りて、代表者個人名義(最判昭和47年6月2日民集26巻5号957頁)又は規約で定めた個人の名義(最判最判平成6年5月31日民集48巻4号1065頁)で登記をすることになります。

そのため、代表者等の名義人が門中から離脱したような場合には、門中と代表者個人との間で名義の移転が必要となるわけです。

しかしながら、登記官には門中が社団の実体を持っているかどうかについての判断権はないため、いざ名義を移すために裁判をするときになって門中が、権利能力なき社団なのか、単に、結束の固い個人でしかないのかが問われることになります。

「権利能力なき社団」の要件

さて、問題は、どういう要件がある場合に「権利能力なき社団」だと認めてもらえるのか、という点です。

この点について判例(最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁)は以下の要件を定めています。

社団の要件

  1. 団体としての組織をそなえていること(構成員が特定され、団体としての活動や意思決定があること)。
  2. 組織運営について多数決の原則が働いていること。
  3. 構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続すること。
  4. 組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること。

本件の結論

今回、私が担当した案件では、遅くとも昭和初期ころから慣行として門中行事が行われていることを示す資料があり、昭和後期には財産にかかる帳簿資料などが残存しており、近年には、それまで慣行的に行われていた意思決定方法や構成員の確定について、名簿や規約を明確に整備し、門中代表者名義での銀行口座の開設なども行っておりました。

したがって、裁判所としても社団性について問題にすることなく、請求通りの判決を得ることが出来ました。

この事案は、相手方も争ってはいない事案でしたが、社団性の有無は、訴訟の「当事者能力」(裁判で原告や被告になることが出来るかどうか)という裁判の根幹に関するものであることから、職権調査事項(当事者が問題にしていなくても裁判所が自分で調査・判断しなければならない事項)かつ職権探知事項(判断の資料が当事者の提供した資料に限定されず、裁判所が自ら調査できる事項)とされています。

一般に裁判では、相手方が争わなければ、請求内容のとおりの判決が下されます(欠席判決)が、この「当事者能力」については、裁判所が自分で調査・判断をしなければならないため、相手方がどうあれ、訴える側はしっかり証拠を整理して主張を組み立てなければなりません。

私自身、相談にはよく出てくるものの、実際に門中を原告とした裁判は初めてでしたが、依頼者の皆様の協力もあり、無事判決を得られたことに安堵するとともに、非常に勉強になった事案でした。

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