瓦版ACLOGOS(7)

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最高裁は、令和6年6月27日、懲戒免職処分を受け、退職金の全部不支給処分を受けた公務員に対して、次のような判決をしました。

事案の概要

XはY市の職員。Xは飲酒運転を理由として懲戒免職処分を受け、退職手当の全部を支給しないこととする処分を受けたことから、Y市を相手に上記各処分の取消しを求めた事案。

原審判決要旨

原判決(大阪高裁)は、本件懲戒免職処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとした上で、上記飲酒運転等は、一般の退職手当を全額支給しないことが相当といえるほどに重大な非違行為であるとまでいうことはできず、本件不支給処分は、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を逸脱ないし濫用したものとして違法であるとして、本件不支給処分の取消請求を認容すべきものとした。

最高裁判決要旨

本件は以下のような事実が認められ、本件非違行為の態様は悪質であって、物的損害が生ずるにとどまったことを考慮しても、非違の程度は重いといわざるを得ない

(1)Xは、長時間にわたり相当量の飲酒をした直後、帰宅するために本件自動車を運転したもの。

(2)2回の事故を起こしていることからも、上記の運転は、重大な危険を伴うものであったということができる。

(3)Xは、本件自動車の運転を開始した直後に本件駐車場内で第1事故を起こしたにもかかわらず、何らの措置を講ずることもなく運転を続け、さらに、第2事故を起こしながら、そのまま本件自動車を運転して帰宅した。

(4)Xは、本件非違行為の翌朝、臨場した警察官に対し、当初、第1事故の発生日時について虚偽の説明をしていたものであり、このような非違後の言動も、不誠実なものというべきである。

(5)Xは、本件非違行為の当時、管理職である課長の職にあったものであり、本件非違行為は、職務上行われたものではないとしても、Y市の公務の遂行に相応の支障を及ぼすとともに、Y市の公務に対する住民の信頼を大きく損なうものであることが明らかである。

そして、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を退職手当管理機関の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきであるとしたうえで、Xに有利な事情である。

(1)本件各事故につき被害弁償が行われていること。

(2)Xが27年余りにわたり懲戒処分歴なく勤続し、Y市の施策に貢献してきたこと。

等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る市長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない、とした。

なお、岡正晶裁判官の反対意見がある。

解説

最高裁は、令和5年6月27日に本件と同様な事案、すなわち、公立学校教員であった者が、酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、職員の退職手当に関する条例の規定により、退職手当管理機関である宮城県教育委員会から、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分を受けたため、その処分の取消しを求めた事案において、

「裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際にされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべきである。」と述べたうえで、

「自家用車で酒席に赴き、長時間にわたって相当量の飲酒をした直後に、同自家用車を運転して帰宅しようとしたものである。」「運転開始から間もなく、過失により走行中の車両と衝突するという本件事故を起こしていることからも、本件非違行為の態様は重大な危険を伴う悪質なものであるといわざるを得ない。」「公立学校の教諭の立場にありながら、酒気帯び運転という犯罪行為に及んだものであり、その生徒への影響も相応に大きかったものと考えられる。現に、本件高校は、本件非違行為の後、生徒やその保護者への説明のため、集会を開くなどの対応も余儀なくされたものである。このように、本件非違行為は、公立学校に係る公務に対する信頼やその遂行に重大な影響や支障を及ぼすものであったといえる。さらに、県教委が、本件非違行為の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める旨の通知等を発出するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていたとの事情は、非違行為の抑止を図るなどの観点からも軽視し難い。」「以上によれば、本件全部支給制限処分に係る県教委の判断は、」「管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間にわたって誠実に勤務してきており、反省の情を示していること等を勘案しても、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。」という判断を示していました。ただしこの判決には宇賀克也裁判官の反対意見があります。

もっとも、上記判決は退職手当の性格について、「本件条例の規定により支給される一般の退職手当等は、勤続報償的な性格を中心としつつ、給与の後払的な性格や生活保障的な性格も有するものと解される。」としており、給与の後払的性格を重視するのであれば、全額不支給についてはより慎重な判断が求められるべきだとする考え方もあり得るでしょう。

現に、本件判決における岡裁判官の反対意見も、退職手当には給与の後払的な性格や生活保障的な性格も有することを指摘して、「この観点から、当該非違行為の内容及び程度等につき、当該退職者の勤続の功を完全に抹消するに足りる事情があったとまで評価することができるか否かにつき、慎重に検討を行うことが必要である。」旨指摘しています。

いずれにしても、公務員の退職手当全額不支給事案に関しては、この二つの最高裁判決によって最高裁の考え方は明確になったように思われますが、民間人の場合には、私的な非違行為の場合に懲戒解雇できるのかという問題も含めて、公務員の場合とは異なる判断が必要になると思われます。

以上