瓦版ACLOGOS(2)

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令和6年3月19日に最高裁判所において、相続回復請求権を有する真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられないとの注目すべき判決がなされました。

裁判所の認定した事実をかいつまんで記せば、被相続人の唯一の法定相続人である養子Xが、被相続人の所有する不動産につき、単独名義の相続を原因とする所有権移転登記をし、当該不動産を10年以上占有し、同人は、下記遺言の存在を知らず、本件不動産を単独で所有すると信じ、これを信ずるにつき過失がなかったところ、後日、甥Y及びA並びにXに遺産を等しく分与する旨の被相続人作成の自筆証書遺言が発見されたことから、XがY及びAらに対し、本件不動産に係るY及びAの各共有持分権につき、取得時効を援用する旨の意思表示をしたというものです。

この事件の争点は、民法884条が、「相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定めている一方で、民法162条2項は、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」とされていることから、相続回復請求権の5年の消滅時効が完成する前に当該相続人の権利を他の者が善意無過失で10年間自主占有した場合に、第三者の取得時効が完成するのか、それとも相続回復請求権が時効によって消滅しない限り相続人は取得時効を援用する者に対して相続回復請求権を行使することができるのか、ということにあります。

以上の点について、今回、最高裁判所は、「民法884条が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにある。」「表見相続人が同法162条所定の時効取得の要件を満たしたにもかかわらず、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより、当該真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられると解することは、上記の趣旨に整合しないものというべきである。」として、「表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるものと解するのが相当である。」と判断し、Xの主張を認めました。

実務上、極めて重要な判決と思われますので瓦版で取り上げることにしました。

以 上

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