パワハラを理由とする分限免職処分が有効とされた事例

パワハラを理由とする分限免職処分が有効とされた事例【最高裁令和4年9月13日判決】

1 事案の概要

 普通地方公共団体の消防職員であった者が、任命権者である同市消防長から、地方公務員法28条1項3号等の規定に該当するとして分限免職処分を受けたのを不服として、その取消しを求めた事案。

裁判所が認定した事実は、消防署の分隊長・小隊長を務めていた者が、部下等約30名に対し、①訓練中に蹴ったり叩いたりする、羽交い絞めにして太ももを強く膝で蹴る、顔面を手拳で10回程度殴打する、約2㎏の重りを放り投げて頭で受け止めさせるなどの暴行、②「殺すぞ」、「お前が辞めたほうが市民のためや」、「クズが遺伝子を残すな」、「殴り殺してやる」などの暴言、③携帯電話に保存されていたプライバシーに関わる情報を強いて閲覧した上で「お前の弱みを握った」と発言したり、プライバシーに関わる事項を無理に聞き出したりする行為、④当該者を恐れる趣旨の発言等をした者らに対し、土下座を強要したり、当該者の行為を上司等に報告する者がいた場合を念頭に「そいつの人生を潰してやる」と発言したり、「同じ班になったら覚えちょけよ」などと発言したりする報復の示唆等、約80件のパワハラ行為を行ったというものである。

2 原審の判断

本件分限免職処分の取消し請求を認容すべきとした。

3 最高裁の判断

本件各行為は、5年を超えて繰り返され、約80件に上るものである。その対象となった消防職員も、約30人と多数である。

こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた粗野な性格につき、公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。

本件各行為により市の消防組織の職場環境が悪化するといった影響は、公務の能率の維持の観点から看過し難い。

本件各行為の中には、当該者の行為を上司等に報告する者への報復を示唆する発言等も含まれており、現に報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、当該者を消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難である。

以上の理由で、本件分限免職処分を有効とした。

4 労働施策総合推進法

本件は、地方公務員の分限免職処分に関する事案であるが、その理由については、民間の解雇等の事例にも参考になるものと思われる。

労働施策総合推進法は、30条の2以下において事業主に対しパワハラ行為に適切に対応するための措置を講じるよう求めており、多くの企業で就業規則等を改定し、服務規律等を整備しているものと思われる。パワハラ行為については、これを理由として精神疾患を発症する事例もあり、企業としても、このような行為について厳正に対処する必要があるとともに、そもそもこのような行為を事前に予防し、発覚した場合には早期に収束させるよう努めるべきである。      以上

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