同一労働同一賃金!!⑯【病気休暇】に関する最高裁の判例が示されました。

令和2年10月23日

【病気休暇】に関する最高裁の判例が示されました。

弁護士法人ACLOGOS

弁護士 竹 下 勇 夫

私傷病による欠勤、休暇取得に関して、正社員は有給であるが契約社員は無休であるなどの待遇差の不合理性判断について、相次いで二つの最高裁判決が出されました。大阪医科薬科大学事件日本郵便(東京)事件です。

大阪医科薬科大学事件は、正職員には、私傷病による欠勤中の賃金が支給されていたが、アルバイト職員には、私傷病よる欠勤中の賃金は支給されていなかった事例、日本郵便(東京)事件は、病気休暇は、正社員について私傷病等により、勤務日又は正規の勤務時間中に勤務しない者に与えられる有給休暇であり、私傷病による病気休暇は少なくとも引き続き90日間まで与えられるのに対し、期間雇用社員については、病気休暇が与えられることとされているが、私傷病による病気休暇は1年に10日の範囲で無給の休暇が与えられるにとどまる、という事例に関する不合理性の判断です。大阪医科薬科大学事件では不合理とはいえないとされたのに対し、日本郵便(東京)事件では不合理とされました。

マスコミ等では日本郵便(東京)事件が主として取り上げられていましたので、こちらの判決から取り上げてみましょう。

原審の東京高裁も、「病気休暇は、労働者の健康保持のため、私傷病により勤務できなくなった場合に、療養に専念させるための制度であると認められるところ、長期雇用を前提とした正社員に対し日数の制限なく病気休暇を認めているのに対し、契約期間が限定され、短時間勤務の者も含まれる時給制契約社員に対し病気休暇を1年度において10日の範囲内で認めている労働条件の相違は、その日数の点においては、不合理であると評価することができるものとはいえない。しかし、正社員に対し私傷病の場合は有給(一定期間を超える期間については、基本給の月額及び調整手当を半減して支給)とし、時給制契約社員に対し私傷病の場合も無給としている労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものであるから、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」と判示して不合理な待遇差だとしていましたが、最高裁も
第1審被告において、私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは、上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも、上記目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして、第1審被告においては、上記時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると、前記第1の2(5)~(7)のとおり、上記正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができる。としました。
他方、正職員には、私傷病による欠勤中の賃金が支給されていたが、アルバイト職員には、私傷病よる欠勤中の賃金は支給されていないという待遇差を不合理とはいえないとした大阪医科薬科大学事件最高裁判決は、私傷病で欠勤中の正職員に賃金を支給する制度目的を
 正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと、同賃金は、このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。

と認定し、そのうえで、①職務の内容及び変更の範囲を異にする、②職種を変更するための試験による登用制度の存在、をあげ、

このような職務の内容等に係る事情に加えて、アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば、教室事務員であるアルバイト職員は、上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない。

としたうえで、

教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものとはいえない。

としました。

この二つの事件は、いずれも私傷病によって勤務を休んだ場合に、正社員に給与が支給され、契約社員には支給されないという待遇差が問題となった点では同じような事例といえます。にもかかわらず最高裁の結論が異なったことについてどのように考えたらよいのでしょうか。

大阪医科薬科大学事件の判決は第三小法廷、日本郵便(東京)事件の判決は第一小法廷と、同じ最高裁判決でも異なる裁判体による判決です。そこで当然、異なる裁判所での判断であり、両小法廷の病気休暇(私傷病欠勤時の給与の支払いの有無)に対する考え方が異なっているからだという考え方が出てくると思います。

しかしながら、必ずしもそうとはいえないような気もします。なぜなら、このような制度の目的について二つの最高裁判決が異なる理解をしているようには思えないからです。むしろ、それぞれの事件の契約職員、アルバイト職員について、日本郵便(東京)事件最高裁判決が、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているとしているのに対し、大阪医科薬科大学事件最高裁判決が、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いと指摘していることから考えて、両判決の結論の差は、契約社員について、継続的な勤務と見込めるかどうかという観点から不合理性の判断をしていると考えられ、二つの判決の判断方法に差異があるようにも思えません。

ただ、この点に関しては更なる最高裁の判断が必要かもしれません。

(続)