令和2年10月20日
【賞与】に関する最高裁の判例が示されました。
弁護士法人ACLOGOS
弁護士 竹 下 勇 夫
しばらく間が空いてしまいました。
令和2年10月13日及び同月15日、同一労働同一賃金に関する重要な最高裁判決が相次いで出されました。ニュースなどでご存じの方も多いと存じます。
今回、新たに最高裁の判例が示されたのは、【賞与】、【年末年始手当】、【扶養手当】、【退職金】、【夏期冬期休暇】、【病気休暇】に関する待遇差についてです。これまでのコラムで述べてきたことを変更するものが含まれていますので、今回の最高裁判決について順を追って説明していくことにします。
最初に【賞与】です。
大阪医科薬科大学事件において、大阪高裁は次のように述べて、正職員の支給基準の60%を下回る支給は違法としました。
賞与が、正職員として賞与算定期間に在籍し,就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する以上、同様に被控訴人に在籍し、就労していたアルバイト職員、とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し、額の多寡はあるにせよ、全く支給しないとすることには、合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理というしかない。
契約職員に対し正職員の約80%の賞与を支払っていることからすれば、控訴人に対し、賃金同様、正職員全体のうち平成25年4月1日付けで採用された者と比較対照し、その者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきである。
これに対し、最高裁は、高裁の判断を否定し、正職員に対しては、年2回の賞与が支払われており、一方、アルバイト職員に対しては、アルバイト職員就業内規で賞与は支給しないとしていても、そのような待遇差は不合理とはいえないとしました。その理由は次のとおりです。
(正職員に対する賞与の支給目的につき)正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。
(職務内容及び人材活用の仕組みにつき)(アルバイト職員の職務は)相当に軽易であることがうかがわれるのに対し、教室事務員である正職員は、これに加えて、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また、教室事務員である正職員については、正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し、アルバイト職員については、原則として業務命令によって配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったことも否定できない。
(その他の事情として)アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。
以上から、正職員とアルバイト職員の賞与に関する待遇差は不合理であるとまで評価することができるものとはいえない、としました。
① 賞与の目的として、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る目的
② 職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲に相違
③ その他の事情として考慮すべき事情の存在(本件では正社員登用制度の存在など)など)
このように、労働契約法20条(現行法では短時間・有期雇用労働法8条)に定める考慮要素を検討したうえで、本件の場合には不合理な待遇差とはいえない、としたものです。一般論として、契約社員には賞与を支給しなくてもよい、としたものではありませんので、ご注意ください。
(続)