【新判例紹介】節税になるの?
財産評価基本通達の定める評価方法以外の方法によって相続財産の評価をすることが許される場合があるとし、財産評価通達の定める路線価により評価方法に基づき相続税を申告したものに対する、収益還元法による鑑定評価額に基づく更正処分が適法であるとされた事例 ―東京高裁令和2年6月24日判決―
この事案は、相続財産として取得した不動産について、財産評価通達の定めるところにより路線価で、甲不動産を約2億円、乙不動産を約1億3300万円と評価し、その余の遺産を加えたうえ、甲乙不動産の購入のための借入金(借入時合計約10億円)を含む債務を控除した結果、相続税に係る課税価格が約2826万円となり、基礎控除等した結果、相続税額はゼロとして申告したところ、税務署長が、不動産鑑定士の鑑定評価に基づき、甲不動産の価格は約7億5000万円、乙不動産の価格は約5億2000万円と評価し、ABCの3名の相続人に対し、それぞれ、約223万円、約541万円、約2億7900万円の相続税と過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対する、当該賦課決定処分の違法性を争った裁判です。本判決は、次のように述べています。
財産評価通達の定める評価方法以外の方法で相続財産を評価することが許されるのか。
実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨及び評価通達の趣旨に反することになるなど、評価通達に定められた方法によることが不当な結果を招来すると認められるような特別の事情のある場合には、許される。
本事案の場合、どのような特別の事情があるとされたのでしょうか。
① 本件各不動産の鑑定評価額と通達評価額の差がかなり大きなものと認められる。
② 被相続人及び相続人は、近い将来発生することが予想される被相続人の相続において相続人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、それを期待して、本件各不動産の購入及び本件各借り入れを企画して実行し、その結果、本件各借り入れ及び本件各不動産の購入がなければ、本件相続に係る課税価格は6億円を超えるものであった。
③ 評価通達の定める評価方法によって評価した価額を時価とすることは、租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかである。
判決の言わんとすることは、本来であれば相続税の課税価格が6億円を超えるものであったところ、相続税の節税目的で、借入金は債務として相続時の実際の借入残額で計算されるのに対し、相続不動産の価額は財産評価基本通達で評価されることから、実際の取引価額とは乖離が生じ、従って相続税に係る課税価格の算出に際し、路線価で算定することによって大幅に課税課価格を圧縮することができ、その結果、このような人為的な方法によって相続税の課税を減少させ、又は免れることは租税負担の公平を著しく害するので、このような場合には、例外的に評価通達以外の方法で評価するとしたものです。
本件は、このような場合に、必ずしも被相続人や相続人の意図したような減税効果が認められないことがあることを指摘した判決です。