概要
本件は、約1年前に知人から「どうしても」と頼まれて300万円を貸したけれど、支払い期限を過ぎても返還がなかったことから、債権回収を依頼されたという事案です。
手元不如意の抗弁
先方は返済義務の存在は認めていたのですが、「お金がない。」、「必ず返す。」とは言うものの、債務者から出てくる話は、「もうすぐお金を作れるから、あともう少し待って欲しい。」の繰り返しでした。もちろん、その都度、具体的にいつまでに返済が可能かを確認し、その根拠は何かを問いましたが、回答は決まって曖昧なものでした。
弁護士の間では、「お金がない人から取るのは難しい」ことを「手元不如意の抗弁」と言ったりします。
「抗弁」とは、法律用語で相手方の法的な主張と両立しつつ、その効果を妨げる別の主張を言います。例えば、契約をした相手方に「契約に基づく債務を履行するよう求める請求」に対して、「契約違反があり契約解除をしたから履行をしない」というような場合や、「貸したお金を返せという請求」に対して「弁済をした」とか「消滅時効が完成した」。というような場合です。
本来返さないといけないけれど「お金がない。」という主張は、法律的には「抗弁」ではないのですが、皮肉を込めて「抗弁」という用語を使用しているのですが、本件債務者の主張はまさに、「手元不如意の抗弁」でした。
突然の債務者の引っ越し
地道な方法ではありますが、この様な債務者に対して、定期的に支払いを督促する電話連絡や文書通知を送り続け、何度も面談を行った結果、受任してから5か月程度を経て、ようやく100万円の支払をうけることが出来ました。
しかしながら、それでも元金はもちろん、期間も経っているので遅延損害金額も相当な額に膨らんでおり全くたりません。残額の支払については、相変わらず、「入金の予定はある」といいながら、俄かには信用しにくいようなものばかりでした。
そして、ついには督促文書が「不在」で届かなくなり、携帯電話も取らないという状況になってしまいました。そのため、訴訟提起を見据えて、住民票を取得したところ、別の場所に住所が移っていることが判明しました。
訴訟提起か交渉の継続か
債務者の曖昧な態度から、訴訟提起をすべき状況とも考えられましたが、相手方の資力の面で不安があるため、訴え提起をしても、依頼者にとって費用の負担が増えるだけの可能性もあり、転居先への住所に対して請求を続けました。
こうして、粘り強く通知文書を送り続けたところ、約10か月に及びましたが、債務元金全額及び遅延損害金(総額360万円程度)を全額回収することに成功いたしました。途中、全額を返すといいながら、債務の一部しか持ってこないということもあり、このときには受け取りを拒絶するなど強気の態度で全額返済のプレッシャーをかけ続けたことが功を奏したものです。
債権回収には、強制執行認諾文言付公正証書や債務者不動産への抵当権等の担保権設定、相殺を利用した回収など、テクニックの部分もありますが、基本的には債務者に対して「返済をしなければならない」という意識を強く持たせることが必要です。
本件では、依頼者様が芯のある一貫した対応をしていただけたおかげで、債務者に対して自信をもって応対できたことが債権回収につながりました。