問題の所在
株主総会の開催については、
会社側における物理的な会場確保の負担の問題
機関投資家等が複数の総会へ出席することが困難であるという問題
主としてこの2点から、かねてより、WEB会議を活用した株主総会の可否について議論が行われております。弊所所属弁護士が会員でもある日本私法学会における研究報告においても、WEB株主総会がテーマとして取り上げられ、経済産業省もWEB総会にかかる法的見解及びQ&Aを公表しています。
https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai.html
WEB総会は、今後の株主総会のスタンダードとなる可能性が高く。また、感染症対策に取り組む企業として、企業の社会的評価を高め、社会的責任(CSR)を果たす観点からも重要です。
2020年6月総会での導入は決して不可能ではありませんので、積極的に検討することを期待します。
ハイブリッド型・バーチャル型
バーチャル型
バーチャル型株主総会とは、株主のための物理的な会場を特段設けることなく、会社の会議室等とWEB会議システムを利用して開催する形態の株主総会です。
現在のところ、バーチャル型株主総会運営は、総会の物理的な会場の用意を前提とする会社法の規定と抵触すると考えられております。
将来的にはバーチャル型株主総会も可能となる可能性がありますが、今回は解説を省略いたします。
ハイブリッド型
ハイブリッド型株主総会とは、物理的な会場を用意するとともにWEB会議システム等を活用して配信する方式です。
ハイブリッド型の総会には、更に、出席型と参加型があります。
出席型
出席型総会は、WEB会議によって参加した株主を株主総会への出席者としてカウントし、総会における株主の権利についてもできるだけ認めるという方式です。
参加型
参加型総会は、WEB参加者を株主総会の出席者とは認めず、議決権行使はあくまで議決権行使書面に基づいて行います。株主総会当日も、会社法上の質問権や動議権を認められず、オブザーバー的に参加を認めるという方式です。
ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS)を取り扱う「GREE」がバーチャル株主総会をしたことで話題にもなりましたが、この株主総会もハイブリッド型・参加型の株主総会です。
いずれの方式が好ましいか
出席型総会の問題点
出席型総会では、当日その場で議決権行使を行うことから、参加型に比べて議決権行使にかかわる議論が活発とになることが想定され、また、WEB上にて議決権行使が認められるため、複数の総会への参加が必要な機関投資家等にとっては使い勝手の良い制度です。
しかしながら、出席型総会については、以下の問題が想定されます。
- WEB出席株主やその議決権行使をどのようにカウントするのか
- 質問の整理や濫用的質問への対応が必要であること
- 会社法上の質問権や動議権を担保する必要があるため配信環境整備がシビア
- 代理出席やなりすましへの対応が困難
- 株主が会社法上の権利行使を行うため決議取消リスクの検討が必要だが、裁判例が不足している
したがって、事例の集積がない現段階(2020年度)においては、出席型のWEB総会は推奨いたしません。
ハイブリッド・参加型総会の開催における留意点
出席抑制・規模縮小・事前登録制(経済産業省Q&A)
WEB総会を開催する際「出席の抑制」、「会場規模の縮小」、「事前登録制」などの対応策については、経産省のHPに国の見解が示されています。
https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html
2020年4月現在は、世界的な感染症の蔓延という未曽有の事態にあることから、本年度の総会に限れば出席抑制も比較的容易に可能ですが、平時においてはWEB総会をやるから出席を抑制するという対応にはリスクがあると考えられます。また、シンプルな出席数の抑制や会場規模の縮小だけである場合、実際に総会当日に会場に入れないなどの混乱が生じる可能性があります。
この様な観点からは、「事前登録制」により、予め、会場規模の見極めておくことが、株主の権利行使の確保とのバランスの観点から優れていると考えられます。
株主による発言の取り扱い
参加型総会にした場合、本来の会社法上の質問権という意味での株主による発言は認められません。もっとも、株主が「ただ見ているだけ」では、WEB総会への参加に対するモチベーションが低下する可能性が高く、何らかの形で発言を認めることが好ましいところです。
したがって、WEB総会を行うにあたっては質問の選定方法やタイミングについて検討が必要です。
質問の受付方法
質問の受付方法としては以下の様な手法が考えられます。
- メール
- WEBフォーム
- チャット
メールは導入が非常に簡便ですが即時性に乏しく質問内容が未整理の状態で送られてくる懸念があります。
WEBフォームは、予めフォームの内容を整えておけば、総会のどの事項に対して、どの様な質問をするのか交通整理したうえで質問させることが可能ですが、即時性に乏しく、開発に多少時間を要します。
チャットは即時性は極めて高く、株主間においても相互に閲覧可能とすれば、議論の活性化には資するところですが、他方で議論が混乱する可能性もあります。
チャットの場合、そもそも質問・意見なのかどうかが分からないコメントも想定されることから、これをメインに使用することは適切ではない様に思います。
質問・意見は、メール・WEBフォームのみに限定し、オプションとして株主間の議論のためにチャットも用意するかどうかを検討する程度がバランスのよい方式だと考えます。
質問・意見対象による選定
WEB参加者の質問については、議題と関連するもののみ取り上げる、事業報告等に関わる事項も含め広く取り上げる、あるいは、議題に関連するものについては出席者に限定するという考え方もあろうかと思います。
議論の活性化に重点を置く場合は議題に関連する質問を認める方向となる一方で、後述のとおり、株主外の参加者が存在するリスクが完全に排除できないことを重視する場合には、制約する方向で検討することになります。
「質問」と「意見」の区別による選定
また、そもそも、「質問」を認めるのか「意見」のみに限定するのか、という点も重要であると考えます。経営陣に対する「質問」の場合、これに対する「回答」を行うことになりますが、それが総会における会社側の説明内容の一環をなすことになりますので、議題に関連する質問に対して誤った回答をした場合には取消しリスクがあり得るところです。他方、「意見」のみに限定した場合、会社が積極的に回答する場合に比較すればリスクは低いと考えられるところです。
質問・意見の時期(事前・当日)による選定
また、当日質問・意見を許すのか、事前質問に限定するのかという問題があります。当然ながら、当日の経営陣の発言を踏まえて質問をしたいという株主はあり得るため、活発な議論の促進という観点からは、受け付けることが望ましい反面、事務局や回答者の負担は大きくなります。
質問の打ち切り
参加型総会においては、WEB参加者の質問は会社法上の質問権の行使ではありません。そのため、質問の打ち切りについては、法的にはシビアではありませんが、そうはいっても、予め、いつまで質問を受け付けるのかルールは明確にしておかないと、参加者に不満感が残ってしまいます。
回答のタイミング
紹介・回答を行うタイミングについて、経産省のガイドにおいては、
- 開催中の紹介/回答
- 終了後の紹介/回答
- 後日ホームページ等での紹介/回答
などが紹介されておりますが、総会終了直後に行う方式は、中途半端な対応である様に思います。この場合には、「総会のときに言ってよ。」という株主が出てくる可能性が高いと考えられ、好ましくありません。
審議中の紹介・回答については、活発な議論を促す観点からは好ましいところですが、その場で質問・意見を選定・回答する備えは十分にしておく必要があります。
外部者の閲覧等への備え
本来、株主総会は会社の社員たる株主により開催される会議体である以上は、企業においては、第三者の閲覧や録音・録画を禁ずる旨を事前にアナウンスすべきです。
もっとも、WEBによって配信をする以上は、「なりすまし」あるいは「株主以外の第三者による閲覧」及び「録音・録画」を、完全に排除することは困難です。
これまでの総会であっても、裁判所からの調査嘱託や文書送付嘱託があれば、録音データ等は出さざるを得ないことが多いと考えますが、WEB総会においては、株主側において、裁判等のコストをかけずとも、総会の内容を検証することが、(事実上)可能となることが考えられます。
したがって、WEB総会の開催に際しては、事前のアナウンスと違反に対する警告を徹底する一方で、企業においては、株主側における事後的・外部的検証が容易になることは十分に認識しておかなければなりません。
招集通知
出席型総会とは異なり、参加型株主総会におけるWEB参加者は株主総会の出席者ではありません。したがって、法的な意味では、WEB会議についての記載は必須事項ではないと考えられます。
もっとも、WEB参加に伴う留意事項については、事前に、告知してくことが好ましいことは明らかですので、以下の事項については、招集通知などにおいて事前に告知しておくべきだと考えます。
- WEBによる参加の方法
- WEBによる参加の場合は総会当日における議決権行使、質問権、動議提出権などが認められないこと
- 質問や意見の取り扱い、回答のタイミング
お土産
お土産については、実際に来場した株主に対する儀礼的なものと整理し、議決権行使書面による場合に認めないのと同様に、WEB参加ではお土産を認めなくとも問題はありません。