【連載コラム】同一労働同一賃金!!③

同一労働同一賃金!!③

 

    弁護士法人ACLOGOS

           弁護士 竹 下 勇 夫

 

前回の短時間・有期雇用労働法第14条第2項の事業主の説明義務に関して、ひとつ補足しておきたいことがあります。それは、短時間・有期雇用労働者の待遇と比較すべき「通常の労働者」を誰が選定するのかということです。事業主が自由に選定してよいのか、それとも説明を求める短時間・有期雇用労働者の側なのかということです。この点に関し、「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」(平成30年12月28日厚生労働省告示第429号)は次のように述べています。

事業主は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が、短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等に最も近いと事業主が判断する通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由について説明するものとする。従って、短時間・有期雇用労働者から説明を求められた際に事業主が説明の対象とすべき「通常の労働者」の選定は「事業主」が行えばよいということになります。

もっとも、この説明義務において比較対象とされるべき「通常の労働者」と実際に短時間・有期雇用労働者が不合理な待遇差を理由に裁判を起こした際に、裁判所が比較対象とすべき「通常の労働者」とは異なる場合があり得ます。このような裁判が提起された場合、原告である短時間・有期協労働者が自分と比較対照されるべき「通常の労働者」を選定して、その者との待遇差は合理的ではないことを主張し、これに対し被告である事業主は比較対象すべき「通常の労働者」は原告の主張するものではなく事業主が主張する別の比較対象者であるとして事業主の主張する対象者と比較せよ、ということで訴訟が進行していくことが考えられます。

このような場合、裁判者は短時間・有期雇用労働者と比較すべき「通常の労働者」をどのように選定すべきかという問題です。この点に関しては、東京高裁と大阪高裁の異なる判決が存在しています。

大阪高等裁判所平成31年2月15日判決は、労契法20条は、「同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者」と規定しているのであるから、有期契約労働者の比較対象となる無期契約労働者は、むしろ、同一の使用者と同一の労働条件の下で期間の定めのない労働契約を締結している労働者全体と解すべきである。控訴人は、裁判所は、有期契約労働者側が設定した比較対象者との関係で不合理な相違があるかどうかを判断すべきであるとも主張するが、比較対象者は客観的に定まるものであって、有期契約労働者側が選択できる性質のものではない。として、比較対象労働者は客観的に定まるものであって有期雇用労働者側が自由に設定できるものではないとしています。

これに反し、東京高裁平成31年2月20日判決は、労働契約法20条が比較対象とする無期契約労働者を具体的にどの範囲の者とするかについては、その労働条件の相違が、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められると主張する無期契約労働者において特定して主張すべきものであり、裁判所はその主張に沿って当該労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断すれば足りるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、第1審原告らは、契約社員Bと比較対象すべき第1審被告の無期契約労働者を、正社員全体ではなく、売店業務に従事している正社員(互助会から転籍した者及び契約社員Aから登用された者。以下同じ。)に限定しているのであるから、当裁判所もこれに沿って両者の労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断することとする(なお,比較対象すべき第1審被告の無期契約労働者を正社員全体に設定した場合、契約社員Bは売店業務のみに従事しているため、それに限られない業務に従事している正社員とは職務の内容が大幅に異なることから、それだけで不合理性の判断が極めて困難になる。)。として、裁判所は有期雇用労働者の主張する比較対象無期労働者についてのみ判断すればよいとしています。

いずれの事件も最高裁判所に上告されているということですので、最終的にこの問題は最高裁の決着待ちということのようです。

                                   (同一労働同一賃金③へつづく)