相続と使い込み
相続が発生した場合、まずもって預金の状況を調査することになります。
この際、相続人であれば被相続人の預金の取引履歴(取引明細)を取得することが出来ます。この取引履歴を確認したところ、理由が分からない出金がされているというケースがあります。
この場合、被相続人本人のために使用したものであれば、特に問題はありませんが、被相続人の承諾を得て相続人自身のために使っていた場合には贈与として特別受益になります。また、被相続人の承諾を得ずに使っていた場合(使い込みの場合)には、被相続人自身が使い込みを行った相続人に対して有していた不当利得返還請求権を、法定相続分に応じて相続することになる結果、死後にその返還請求を受ける可能性があります。
例えば、2人の子供のうち1人が、親の持っていた1000万円の預金を使ったというケースであれば、他方の子は500万円を請求する権利があることになります。
使い込みかどうかを判断することの困難性
理屈としては非常にシンプルですが、実際に、使い込みなのかどうかの判断は極めて困難です。
特に、使い込みを疑われた人物が親と同居していた場合、親の預金を利用して生活費を支弁することもあれば、自分の預金を使って親の生活の面倒を見ることがあったりもします。また、贈答や行事ごとも、それが自分の関係のものなのか、親の関係のものなのか、あるいはその両者が混在しているのか、非常に分かりにくいのです。
更に、親族間のことなので、明確に領収書類を残していなかったり、長期間にわたるやり取りのため記憶も薄れていたりしているケースもしばしばあります。特に、民法上の不当利得返還請求権は、現行法(2020年改正民法施行前の民法)のもとでは、10年の時効であることから、忘れたころに請求されるということも十分あり得るのです。
使い込みと遅延損害金
使い込みに対しては、法律上、遅延損害金が付きます。その利率は、改正民法では3%の変動金利ですが、現行法(2020年改正法施行前の民法)では年利5%です。
前述のとおり、不当利得返還請求権の時効期間は10年であり、10年間年利5%(単利)で遅延損害金が発生し続けた場合は、元金に対して1.5倍にまで膨れ上がることになります。
したがって、実際に請求を受ける段階では、記憶も薄れている一方で、請求額は膨れ上がっていることになってしまいます。
事案の結末
本件では、確かに親には1000万円近い預金があり、そのうち一部は依頼者の通帳にも入金されておりましたが、他方で、依頼者においても、相当多額の金銭を親の生活や入院費用等に使っており、具体的にどれだけのお金を誰の何のために使用したのかは、依頼者自身にもはっきりとはわからないという状況でした。
そこで、手元に残存する領収書に基づき被相続人本人のために使用した金額を控除するよう主張し、また、一部の金銭については依頼者が取得したという立証がなされていないことなどの反論を行った結果、相手方請求額のわずか20%程度の金額で和解することが出来ました。